ジャズ評論家:副島輝人
司会・進行:沼田順
昨年の4月から始まったこの連続レクチャーの意図は、20世紀後半の日本即興音楽史の重要な一支流であるフリージャズの歴史を辿りながら、その語法や構造について考えるという試みです。その時代をリアルタイムとして通過してきた副島輝人が、ステージの裏側からの視点で、ミュージシャンたちの創造性と人間性を語ります。
表現にかかわる多くの秘話と共に、未発表テープや当時のLPレコードなどをお聴かせします。日本フリージャズ史というタイトルではありますが、関連する外国のミュージシャンの話も織り込まれていく予定です。
日時:毎月第3日曜日 午後7時より約2時間半
場所:東京、高円寺「円盤」(電話:03-5306-2937)
(高円寺南口を出て、JR線に沿って荻窪方面に向かい徒歩3分、左側の五麟館ビルの二階)
料金:1500円(1ドリンク付)
第18回(最終回) 11月21日(日)ゲスト:不破大輔
昨年4月から1年半にわたって続けられてきた円盤における副島輝人の連続レクチャー「日本フリージャズ史を語る」(ライヴ評論)も、これが最終回になります。そこで今回は、これまで行ってきた個別的なテーマから離れて、1960年代から2004年の今日までの約40年間の日本フリージャズの歴史を概観することにしました。特に創生期70年前後を重点的に取り上げるつもりです。
思えば、日本でフリージャズが誕生した60年代後半は、動乱の時代でした。ベトナムと中東における戦火、アメリカ黒人の人権闘争、西欧諸国でのスチューデント・パワーの盛り上がり、そして日本では全学連を中心とした安保闘争などで、一般市民の日常意識も大きく揺れていました。そうした状況の中から、それまでになかった鮮烈な表現を持った前衛芸術が、次々に出現してきました。それは土方巽、寺山修司を始め、アンダーグラウンド映画、美術家のパフォーマンスなど、芸術のほとんど全領域で起こったのです。
フリージャズもまた、激しい自己表現を放射していました。上手なテクニックをけらかしたり、観客におもねいたりすることは一瞬もなく、時代を超えるスピードと魂の叫びだけを演奏しました。ミュージシャンの生き様が、そのまま音楽になっていました。「俺の演奏を聴きたいと思う奴だけ聴きに来い!」という不敵な面魂がステージの上にありました。今は亡い高柳昌行、吉沢元治、高木元輝、阿部薫、井上敬三など。それと富樫雅彦、佐藤允彦、山下洋輔……。凄まじい精神と即興の軌跡でした。そのことについて語ります。
話し相手は不破大輔。最終回ですから、いつもより一層過激にしゃべります。(副島)
第17回 10月17日(日)
9月の中旬から下旬にかけて、10日間ほどロシアを旅してきましたので、今月はロシアのジャズについて語りたいと思います。
ロシアのジャズは、日本や西欧と同時期の1920年代初めにスタートしていたのですが、政治的状況に振り回されて、多難な歴史を歩んできました。しかし、一握りの創造的なミュージシャンたちは、密かに新しいジャズ表現を模索し続け、1960年代末にはフリージャズをも指向するに至っていました。そしてペレストロイカ以後、政治体制の押さえ蓋が外されたのを機に、一斉に活動を開始して、百花繚乱の状況となったのです。
世界のジャズを俯瞰すると、アメリカ、ヨーロッパ、日本と、それぞれ微妙に色合いが違いますが、ロシアのジャズはとりわけ強い特徴を持っています。それは永い間地下に隠れてしか演奏できなかったこと、ロシアのフォークロアを積極的に取り入れたことなどの理由によるのでしょう。
かつてロシアは芸術的先進国でした。クラシック音楽の領域については言うまでもなく、チェホフからメイエルホリッドに至る演劇、抽象美術の元祖マレービッチ、アンナ・パブロワやニジンスキーの現代舞踊、プドフキンやエイゼンシュテインの映画作品等々。そのDNAを受け継いだロシアン・ジャズを再検証したいと思うのです。(副島)
第16回 7月18日(日)ゲスト:横川理彦
この連続レクチャーは、日本のフリージャズの発生とそれから今日までの発展の経緯を、音源を使いながら語るものなのだが、今回は特別企画として、アラブのコンテンポラリー・ミュージックを取り上げた。雑誌に例えれば、別冊特集といった趣向である。
近年、世界の眼がアラブに集まり、様々な報道が伝えられてくるが、文化に関する情報はほとんどと言っていいほど入って来ないのだ。特に我々日本人にとっては、美術におけるアラベスクや、文学としてはアラビアン・ナイトくらいが一般的知識でしかない。
しかし、今アラブでは、創造的即興音楽が立ち上がり始めている。今年ドイツのメールス・ジャズ祭に出演した「Clotaire K」というレバノンのグループは、アラブの伝統的民族楽器ウードにターンテーブル、ラップを加えたクインテットだった。それは、いわばアラビアン・ヒップホップとでもいうべきサウンドだった。
こうしたアラブのコンテンポラリー・ミュージックの現状について、最近何度もアラブを訪れ、現地のミュージシャンたちと共演してきたヴァイオリニストの横川理彦に、副島がインタヴュアとなって、音源を聴かせながら体験を語ってもらう企画である。
第15回 6月20日(日)ゲスト:勝井祐二
今日の即興音楽シーンは、フリージャズの展開だけでなく、プログレ・ロックなど様々な音楽の要素が混入・混合している。そこで前衛的ロックの流れと、それがフリージャズと混血あるいは遺伝子交換して新しいものが生まれた状況と経緯について、ROVOの勝井祐二に語ってもらう。
第14回 5月16日(日)ゲスト:梅津和時は語る
日本ポスト・フリーの重要な担い手の一人だった梅津が、「生向委」から今日までの軌跡を語ってくれる。
第13回 4月18日(日)「日本のポスト・フリー」
アナーキーなヴァイオレンスを表現とした第一期フリージャズの時代が終演を迎えた後、坂田明、近藤等則などが新しい舵を切った「ワハハ」や「チベタン」のことなど。
第12回 3月21日(日)「二人の故人を追悼する」
50歳を過ぎて突如中央ジャズ界に登場した鬼才サックス奏者、井上敬三(2002年没)の熱い後半生。今年3月に急逝した韓国のドラマー金大煥がハーレー・ダビッドソン(のエンジン爆発音)と共演した実験精神(幻のCDを試聴)。
第11回 2月16日(月)(今回のみ月曜日となりますので、ご注意ください)
即興音楽界で屈指の論客である大友良英が、日本フリージャズの構造と語法について、副島と熱い対話を行う。
第10回 1月18日(日)
70年代の伝説のグループ「ナウ・ミュージック・アンサンブル」と、80年代にヨーロッパを震撼させたフリージャズ・オーケストラ「イースタシア」のふたつのグループのリーダーであった藤川義明が今、縦横に語る。
第9回 12月21日(日)
日本フリージャズの特性。各民族の文化的アイデンティティを尊重しながら、その中で、日本におけるジャズ文化とは何か、ということを考えることであり、また日本の文化伝統がミュージシャンたちの創造性の中にどのように存在しているかを考察する試み。佐藤允彦LP「観自在」、富樫雅彦「スピリチュアル・ネイチャー」(未公開特編テープ)、山下洋輔LP「砂山」などを用意し、聴衆の皆さんとのディスカッションも行いたいと考えています。
第8回 11月16日(日)
吉増剛造、白石かずこ等の詩朗読に絡む翠川敬基、高柳昌行、豊住芳三郎等の即興演奏。
第7回 10月19日(日)
即興音楽界の一匹狼、吉沢元治。実験と挑戦のトランペッター沖至。
第6回 9月12日(金)(9月は変則的に第2金曜日となりますので、ご注意ください)
豊住芳三郎をゲストに迎え、阿部薫、高木元輝、吉沢元治など、今は亡き僚友たちの人と音楽を語る。
第5回 8月17日(日)
「ナウ・ミュージック・アンサンブル」(未公開テープを聴く)と「タージ・マハル旅行団」について。