CONSUME GROUND-ZERO Projectについて
「著作権なんぞクソ食らえ!」と言うのは簡単だし、カッコ良い。でもコトはそうシンプルじゃない。あなたの演奏を誰かが勝手にCDにして大金を手にするのと、GROUND-ZEROが革命京劇を勝手にサンプリングして金にならないCDを作るのとでは、どこが違うのか?うなるほど金のある日本のテレビ局が俺の曲を勝手に使ってるのに1円の入金もない事に、俺は本当に腹を立てているけれど、テレビ局がジャスラックに銭を入れてる以上これは違法じゃないらしい。それじゃ1円も払わずにそのテレビを勝手にサンプリングしてCDを出している俺は許されるのか?その上、そのCDをサンプリングしたシュトック・ハウゼン&ウォークマンはどうなるんだ。
著作権の存在理由は大ざっぱに言っちゃえば2つ。ある作品は個人によって創られ、それには所有権があるって考え方と、その所有権があるとして、そいつをどう公平に銭に置き換えるかって話だ。でもって俺が問いたいのは、創作ってのは、必ずしも特定の個人に帰するようなもんばかりじゃないってあたりと、それじゃその特定の個人を特定出来ない場合の著作権はどうなるんだってあたりだ。
単に商品として流通するだけじゃなく、サンプリングされ続けるなんて流れの中で、いったい誰が作品を作った張本人を特定できるというのだ。個人の創作によって作品が生まれるって考え方そのものが、まずは問われているのだ。とまあ、ゴタゴタ書くくらいなら自分達でやってしまえ。
っというワケで 96年冬、GROUND-ZEROは韓国の人間国宝、金石出(キム・ソクチュル)の演奏をサンプリングする。ピュアな芸術信仰者はこれだけでも怒り出しそうだ。彼の神がかった演奏は、まがうことなく個人の創作だけれど、でも、もしかするとそれは神と祖先の声が彼を通して出て来ただけなのかもしれない。著作権なんて青っちろい考えが一吹きでふっ飛びそうな、その聖域をGROUND-ZEROがまずはサンプリングする。さらに、何組かの個性豊かなサンプリングアーティスト達が、これをリミックスする。この2つのバージョンを消費とサンプリングのマナ板にのせる。公募サンプリングとでも呼ぼうか。どう料理するかは、あなた次第だ。テクノにしようとド演歌を作ろうと好きにしてくれ。見てみたいのは、スタイルや出来の良さではなくてもっと深い何か(そんなもんがあればだが)だ。そこから見えてくるであろう、ゴタゴタした問題や批判こそが、一言ではとてもカタのつきそうにない著作権の問題をも含む「創作の今」の限界点に他ならない。まずは、あなた自身の手でこいつをズタズタにしてほしい。話はそれからだ。
1996年11月執筆
"CONSUME GROUND-ZERO Project" とはVol. 1-Vol. 3まで合計3作品発表するものです。3つの作品の詳しい内容は下記のとおりですが、Project全体のコンセプトはGROUND-ZEROによるオリジナルの "CONSUME GROUND-ZERO Project" のVol. 1 がリミックスされていき、その名のとおり(CONSUME=消費)されていく過程を作品化し発表していくことであり、また、このプロジェクトは、大友良英が進行中のプロジェクト「サンプリングウィルス計画」の1つでもあります。なお、作品は大友の主宰するCDレーベル「SANK-OHSO discs」より発表します。
各作品の説明
Vol.1:韓国の東海岸巫俗の長老、金石出の胡笛演奏のサンプリングをベースとしたGROUND-ZERO初のアンビエント作品。97年4月発売。
Vol. 1: CONSUME RED (\2,500 CMDD 00046)
GROUND-ZERO
大友良英 (turntables, guitar)
内橋和久 (guitar, effects)
松原幸子 (sampler)
ナスノミツル (bass)
植村昌弘 (drums)
芳垣安弘 (drums)
菊地成孔 (sax)
田中悠美子 (gidayu-shamisen)
sampling guest
金石出(キム・ソクチュル)(hojok)
composed by
大友良英
Vol. 2:世界で最も過激なリミックス・ワークをするアーティストの手により、Vol. 1をリミックスした作品。97年7月発売。
Vol. 2: CONFLAGRATION (\2,500 CMDD 00047)
Remixed by
ガストル・デル・ソル (gastr del sol) : USA
シカゴを拠点にポスト・ジャンルに活躍するデュオ・ユニット
シュトック、ハウゼン&ウォークマン (Stock, Hausen & Walkman) : UK
英国マンチェスター発の自由なサンプリング王子様たち
中原昌也 (Nakahara Masaya) : JAPAN
日本が誇るソニック・カクテル・ポップ・アーティスト、暴力温泉芸者
ディクソン・ディー (Dickson Dee) : HONG KONG
香港で独自の視覚的音楽活動を続けている作曲家、ディクソン・ディーこと李勁松
ボブ・オスタータグ (Bob Ostertag) : USA
サンフランシスコ在住の作曲家/サンプリング・アーティスト
Vol. 3: CONSUMMATION (\2,500 CMDD 00048)
Vol. 3:Vol. 1とVol. 2のみを音源としたリミックス作品を一般公募し、選ばれた作品を収めるもの(14作品)。98年4月、1000枚限定発売。
Produced by
コンセントちゃん(松原幸子/いとうはるな)
Basic idea and advisor
野田茂則(キャロサンプ)