約2年前、私のもとにデヴィッド・ヤリントンと名乗る人物から電子メールが届いた。東京の麻布十番にある「デラックス」と名づけられたスペースで、即興音楽のライヴをできないだろうかという提案だった。デラックスは製薬、建築、グラフィック・デザインの各会社、それにヤリントンとマイク・キューベックのふたりが経営する「東京ビール」という小さなビール会社が賃借している元倉庫の建物で、広々としたスペースを有している。場所の確認に出向いた私は、すぐに気に入った。尖った高い天井、かなり広いスペース(100人は収容できる)、サウンド・システム、ヴィデオ映写機、移動可能な屋内の仕切りや席。こんなライヴ会場は東京でも滅多にない。その後、私は米国で演奏するために一ヶ月半、日本を離れていたが、その間も忘れることはなく、日本に戻るや毎月一回のシリーズ開催について数人の知り合いに相談したりした。ところが数カ月後、「Improvised Music from Japan」サイトを運営する鈴木美幸が、シリーズ最初の演奏者にイタリアのサックス奏者ジャンニ・ジェビアはどうかと提案してきた。かくして2000年3月3日の第一回コンサートは成功裏に終わり、その後は時に自分自身を演奏者に加えながらスケジュールを組んでいった。ただ、初めの頃はもたつくこともあった。例えば、2000年の5月には開催しなかっし、ケヴィン・ドラム+杉本拓やジョセフ・ジャーマン+豊住芳三郎のデュオを計画しながら実現できなかった。とはいえ、事はよい方向へと進んでいく。大物とは縁がないと踏んでいただけに、ジョン・フェイヒー、エヴァン・パーカー、高橋悠治といったミュージシャンが出演することになるとは夢にも思わなかった。
「ミーティング・アット・オフ・サイト」やバーバー富士でのシリーズのような東京界隈で行われている他の即興音楽シリーズとは違い、デラックス・インプロヴィゼイション・シリーズは毎月の開催日や構成が予め決まっていない。それは適当な出演者がいるか、またデラックスが空いているかによって変わる。出演者の選定においては偏りがないように努めてきた。これまでのところは毎回違った内容で、東京即興シーンのほんの一部のみに、また即興音楽の特定スタイルにのみ集中するようなことにはなっていない。おそらく、それがこのシリーズの何たるかを一番よく物語っていると言えるだろう。音楽創造の瞬間を間違いなく聴くことができるのだが、それはいかなる演奏形式でも可能なのだ。一度も共演したことのないミュージシャン同士の出会いあり、韓国のリズム構成の探究あり、記譜されたものを即興的にコラージュするグループもある。同様に、観客と演奏者との関係という点で毎回スペースの使い方も変わった。特に第2回と第4回のコンサートでのやり方は、今後も活用したいと思っている。第2回コンサートではダンサーの真島恵理がフロアーの中央に位置し、第4回コンサートでは高橋悠治の指示で演奏者たちが円を描くように配置され、観客はその円の内側外側双方に席を取った。真島のダンスを手本にして、非音楽的な要素を含んだコンサートを今後も行えればと思っている。同じスペースで別の展示会が開催中ということもある。斎藤徹のソロ演奏は絨毯の展示会の期間中に行われた。このシリーズでの演奏はすべて録音される。2001年の夏にはこれらの演奏から2枚のCDを製作し、7月半ばの週末に開催するデラックス・インプロヴィゼイション・フェスティヴァルでリリースする予定である。
翻訳:鈴木美幸