(1) The POP GROUP / We Are All Prostitute (7 inch)
(2) V.A / No New York
(3) Steve Beresford / The Bath of Surprise
もう20年以上も前のことだ。当時、阿佐ケ谷にあった4畳半で1軒屋という、なんとも言い難い小屋のようなところに住んでいた私のところに、小学校の頃からの同級生アベくんがレコードを3枚持って突然訪ねて来た。彼は、いったいなにをやって生活しているのか、だいたいどこに住んでいるのかも謎で、ただ、いつもふらりと前ぶれもなくやってくる。それも大抵は、見たこともない不思議なレコードを持って現れるのだ。私のほうも名前だけの大学生で、ミュージシャン志望ではあったけれど、どうしていいかもわか らずふらふらしていたから、ふたりはふらふら同士だ。もっとも一応小屋でも住むところがある私と違って、アベくんのふらふらぶりは筋金入で、持ってくるレコードもハンパじゃなかった。
無口なアベくんは、いつもどおりものも言わず、コピーみたいな粗雑なジャケからシングルを取り出し針を落とした。ジャケのまんまの、うすっぺらで、硬質で暴力的な音。なんじゃこりゃ。ポップグループってバンド名? B面のトリスタン・ホンジンガーのアナーキーなチェロが出てくる頃には、頭ん中は真っ白だ。しかもたて続けにNO NEW YORK A面のコントーションズが来た日には、もうおしっこがちびっても文句も言えない。あまりの事態に、最後の1枚がなんだったのか、記憶があいまいだ。キャバレーボルテールの7インチだったような気もするし、スティーブ・ベレスフォードのバス・オブ・サプライズのようでもあるし、あるいは案外普通のロックだったのかもしれない。
学生運動世代が夢中になっていたようなジャズやロック、フリーなんかを後追いで聴いていた私にとって、この日がどれだけ衝撃的だったことか。翌日からがぜん、自分の音楽がやれそうな気がして楽器の練習に熱がはいったんだけれど、それがいつまで続いたのやら。かつてないほどの好景気と、ニューアカからハウスマヌカンまで百花繚乱の明るいカルチャーが街とデパートにあふれることになる80年代は、こうしてボクの目の前にずいぶんと不景気な顔をしてやってきた。
大友良英