Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

ジョンゾーン / ビッグ・ガンダウン

大友良英

80年代NYを象徴するアルバムといっても良い本作は、モリコーネ作品を徹底的に解析、解体しながらゾーン流のあざやかな再構築を見せてくれるリメイクのお手本のようなアルバムだ。流行のビートに乗せておいしいフレーズを繰り返すのがリミックスだったりリメイクだと思われては困る。そんなのは数あるリメイクの中の一バリエーションにすぎない。とりわけクリスチャン・マークレイをフューチャーした「battle of algiers」は、わたしにとっての80年代マスターピース、今聴いても素晴らしい。ポストモダン潮流真っ只中のNYにあってパンク、即興、ジャズ、サンバ、現代音楽等々がゾーンのコンダクトによってモリコーネ作品を触媒にして、文字通りポストモダン的にジャンルを縦横無尽に横断して行く様は今の視点で見ても充分に面白い。参加メンバーもこの時代ならではで、NYダウンタウン・ミュージックの鳥瞰図的な作品にもなっている。とりわけモリコーネの特徴でもあるギターの音色に目をつけたゾーンによるNYオールスターキャストとでも言えそうなギターリスト群…アート・リンゼイ、フレッド・フリス、ジョディ・ハリス、ロバート・クワイン、ヴァノン・リード、ビル・フリーゼル等のよる演奏は80年代NYギターサウンドのショーケースのようだ。新録6曲を加えたTZADIK盤の本作ではここにさらにマーク・リボーとデレク・ベイリーまでが加わる。80年代を感じさせる平面的な、言い方を変えればパンキッシュなギターの音色と、新録の逆にヴィンテージ感ある音色を比較してみるのも面白い。無論聴き所はギターにとどまらない。個人的な印象を言えば、奥行きと陰影あるモリコーネの世界を一旦平たくした上で陰影のかわりにスピードを、奥行きのかわりに80年代NYのリアリティを持ちこみ完全にゾーンの音楽にしながらも、ぎりぎりのところでモリコーネの世界であり続けているような音楽に見えた。アバンギャルドな手法を縦横に使いつつ、映画音楽の新しい境地を切り開いてきたモリコーネを、逆にアバンギャルドの側が評価したという意味でもこのアルバムの持つ意味は大きかったのではないか。余談になるが、この録音時期をはさむ数年間ゾーンは年の半分を東京で過ごしていた。彼の存在がその後の東京のアンダーグラウンドシーンにどれだけ大きな影響を残したかについて、いずれ誰かがちゃんと書くべきだろう。

愛育社刊『エン二オ・モリコーネ』(2002年10月発行)より


Last updated: June 23, 2003