大友良英
たてつづけに今回紹介するのは、わたしのバンドの新メンバーでもある欧州即興界の巨星アルフレッド・ハルトです
今回の出演者の中では最年長の54歳。でも、ものすごく若く見える。彼との出会いは古い。彼の音源をわたしが聴いたのが80年代中ごろ。ハルト=ゲッペルスの『フランクフルト=ペキン』というアルバムで、もうこれは、本当にものすごい衝撃的だった。まだサンプリングって言葉も、ぼくらに使える実用になるようなサンプラーもこの世に存在しなかった時代だけれど、今から考えるとこの作品こそが、ミュージック・コンクレート(テープ・コラージュによる音楽)ではなく、サンプリング音楽の最初の傑作ではなかろうか。オープン・テープに収められた中国の革命京劇の断片をステージ上に流しながら、彼等はそれにあわせて演奏し、叫び、走り回りながらいろいろなオブジェを叩き壊し、轟音を出したりして演奏したそうだ。残念ながらそのパフォーマンスをみることは出来なかったが、レコードとしてわずか500枚だけプレスされた『フランクフルト=ペキン』は私の宝物だ。少なくともわたしにとっては、今だにこの作品が最高のサンプリング音楽だと思っているし、そもそも90年代にわたしがやっていたバンドGROUND-ZEROの第2期は、『フランクフルト=ペキン』の中の傑作「ペキンオペラ」をリ・サンプリングする為に作ったバンドだったくらいだ。このGROUN-ZEROの『革命京劇』をつくる過程で、わたしは彼等の音源のサンプリング許可を得るためにハルトとゲッペルスにコンタクトを取った。今から11年前だ。彼等はすぐに快諾、おかげで、あの作品を完成することが出来た。
ほかにも80年代、彼はフレッド・フリス、トム・コラ、クリス・カトラー、ダグマー・クラウゼ等と
『ダック & カバー』という名作を発表したり、カトラー等と「カシーバー」を組んだり。カシーバーの1枚目などは今聴いても素晴らしい作品だと思うなあ。そんなわけで、わたしは彼のミーハー的ともいえるファンでもあるのだ。
彼の面白さは、単に優れたサックス奏者にとどまらない。自ら音や映像のコラージュ作品をやったかと思うと、おもいきりフリージャズ寄りの作品も発表したりと実に多彩だ。ただ残念なことに90年代後半、彼はサックスを吹けないまでに体調を崩してしまい、再起不能とまで言われ欧州シーンから完全に姿を消してしまったかに見えた。そのハルトが、なんと奥さんの関係でソウルに越してきたのが4年前。そこでいいドクターに出会ったこともあって、座ってならサックスが吹けるまでに彼の健康状態は回復していた。そんなときだった。ONJQから菊地成孔が脱退したのは。いっそのことここで解散しようかとも思ったが、その前に駄目もとでハルトに声をかけてみようと思った。ソウルといえば飛行機でたかだか2時間ちょい。飛行機代も往復で3万円、大阪に行くのとあまり変わらない。彼は10歳年下の、彼のまわりをうろちょろしていた小僧っこだったオレのオファーを快く引き受け、昨年の1月からわたしのバンドのメンバーになってくれた。しかも初共演で、彼は立って演奏。それだけではない、ステージ
上で転がり落ちんばかりにジャンプしながら演奏する姿を見て正直びっくりした。心配していた健康状態はほぼ回復していて、彼も再起の機会をさがしていたのかもしれない。双方にとっていい出会いだったのだ。
それまでただの彼の一ファンに過ぎなかったわたしは、彼を含む新メンバーとともに自分のバンドのサウンドを新たに考えなくてはならなくなった。ファンとばかりも言ってられなくなってきた。最初の壁は言葉だった。わたしとSachiko M以外のメンバーは英語で仕事をすることに慣れているわけではない。
でも、あえてわたしは手助けせずに、ギクシャクしてもいいから、ブロークンでもかまわないから、彼とメンバーの会話を極力訳さないことにした。特にフロントを受け持つ津上研太とハルトは蜜なコミュニケーションが必要で、この2人にはわたし抜きで会話がはずむような関係になってほしかった。というのもONJQを同じメンバーで4年やってきて、バンドのサウンドとして成長した反面、馴れ合った方向に行きかねない危機をいつも内包していて、なんとかしたいとずっと思っていた矢先でもあったからだ。ツーカーで話が通じない状態に強制的にならざるを得ない…というのはいいもんだ。いつも無意識でやってたり、当たり前のことと思って互いに確認しなかったことをいちいち検証したり、説明した
りしなくてはならないからだ。同じ時期にJAZZルーツではない高良久美子とSachiko Mが加入、おかげでバンドは一気に新しい方向に動き出した。特に昨夏の欧州ツアー以降は、はっきりと次の方向の兆しが見えてきた感じで、今やっと彼が僕等の大切なメンバーになったことを実感している。
そのハルトに、今度PITINNでフェスをやるから21日に好きなことをやって…と依頼したのが昨夏。で、何ヶ月も熟考した末に彼が選んできたのが杉本拓と吉田アミだった。ものすごい意外であった。正直なんで?…とすら思った。彼とこの2人は確か面識がないはずだし、第一、あまりに音楽が違うんじゃ…とすら思って「彼等の音楽を知ってるの?」というメールを一応出してみた。返事はもちろん「YES」だった。こうも付け加えてあった。「仮に杉本拓がふたつしか音を出さなくても、それでいいんだ」。それこそ勉強熱心な彼は、来日の度にいろいろなジャンルの日本のCDを沢山買い込んでいくのだが、その中で彼が気にいったのがこの2人だったようだ。そこまでの覚悟があるなら、この共演ぜひ実現させたいと思った。なにしろ杉本拓と吉田アミの2人はわたしにとっても、ものすごく重要な、大切なミュージシャンでもあるからだ。90年代後半以降、その音楽のクオリティと、やっていることの深さと誰にも似てない独自さという意味では杉本拓、吉田アミは圧倒的と言っていいくらい群を抜いていると思うからだ。ハルト、杉本拓、吉田アミ、この3人の共演がいったいどうなるのか、今回のフェスの中でも一番「謎」で見当のつかないとんでもないセットになりそうな気がして今から楽しみなのだ。
1月19日(水)〜23日(日)
OTOMO YOSHIHIDE's NEW JAZZ FESTIVAL
新宿PITINN 電話 03-3354-2024
http://www.pit-inn.com/
20、21日の席はまだ余裕ありますので、座って聴きたい方はお早目の予約をおすすめします。19、22,23日もまだチケットありますのでご心配なく。ただしラスト2日に関しては、早めの予約をお勧めします。
1月19日(水)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ENSEMBLE
plays Eric Dolphy「Out to Lunch」:
大友良英(g)、アクセル・ドゥナー (tp / from Berlin)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl / from Seoul)、マッツ・グスタフソン (bs / from Stockholm)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)
1月20日(木)
●アクセル・ドゥナー (tp)、井野信義 (b) DUO
●アクセル・ドゥナー (tp)、大友良英 (turntable)、Sachiko M (sine waves)、大蔵雅彦 (reeds) Quartet
●コル・フラー (p / from Amsterdam)、秋山徹次 (g)、マッツ・グスタフソン (bs) Trio
●コル・フラー (p)、大友良英 (turntable) Duo
1月21日(金)
●アルフレート・ハルト (electronics)、杉本拓 (g)、吉田アミ (vo) Trio
●マッツ・グスタフソン (bs)、大友良英 (turntable, g )、Solo & Duo
●大友良英作曲作品:芳垣安洋 (perc)、Sachiko M (sine waves)、伊東篤宏 (optron)、大友良英 (turntable)、宇波拓 (computer)、中村としまる (no-input mixer)
1月22日、23日(土、日)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ORCHESTRA:
大友良英 (g)、アクセル・ドゥナー (tp)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl)、マッツ・グスタフソン (bs)、青木タイセイ (tb)、石川高(笙)、コル・フラー (p)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)
スペシャルゲスト:カヒミ・カリィ (vo) 他、特別ゲストあり
19日、20日、21日:各3,500円 / 22日、23日:各4,000円 / 5日間通し券:16,000円
新宿ピットインにて、チケット前売りおよび予約受付中