Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年12月)

(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
モスクワ。新しくできた「ダム」というライブ・スペースでソロをやる。モスクワは96年以来3度目になる。来る度ごとにお客さんがファッショナブルになっていく。ひどい状態の経済とはいえ、物が手に入るようになってきたのだ。いつもならコミュニズムっぽい融通のきかないホールでやることがロシアでは多かったんだけれど、このスペースはいい。「これは私たちの場所よ」と得意げに若い客が言うのもわかる。さて、オレのほうは例によってターンテーブルの上にチャイナ・シンバルをのせ、強烈な低音と高音でフィードバックだけの演奏。先々週、運の悪いことにオーストリアでレコードを盗まれた上に、CD-Jまで壊れてしまった。ちょうどサンプリングはもうやめ時…って予感がしていた時のでき事だった。だったらちょうどいい。レコードもCDも使わずに、DJセットだけで演奏してやれ。今のオレにはこれしかできないし、フィードバックの音が気にいってるんだ。演奏終了。すごい拍手。どうやら、オレは受け入れられたみたいだ。客席にはツアー中のNYのミュージシャン、ネッド・ローゼンバーグがいる。「クリスチャン・マークレイはもうどこにもいないね」。彼とは、オレがまだ元祖ターンテーブル奏者クリスチャンの面影を強く漂わせていた頃からの仲だ。粋なこといい やがる。

@月@日
海賊盤の巨大なブラック・マーケットがあるというので行ってみる。タクシーで30分。ここはモスクワのどの辺なんだろう。井の頭公園ほどもある敷地にぎっしりと小さな屋台がな並んでる。何百軒、いや千軒はあるかもしれない。その間を、ものすごい数のロシアの男どもがうろうろしている。気温は氷点下10度。みんな強力な防寒着を着ているせいか、なんだか異様な光景だ。無論売られてるブツの99%が不法コピー。一枚約200円。ポップス、テクノ、ロック、ヒップホップ、ボサノバにジャズからエスニックに至るまで、種類が豊富というわけではないが、それでもありとあらゆる海賊盤がある。メジャーのヒットものなら、だいたいは手に入る。ただし、ほとんどは正規盤をそのままコピーしただけのもので、海賊盤ならではの面白みを期待する向きには、薦められないな。ちょっといいのはコンピュータのソフト屋で、数万円はする音楽ソフトがいくつも入ったCD-Rがわずか1000円だったり、バカ安でゲーム・ソフトを売ってたりする。うろうろしてたらなんとオレのCDもあった。でもこの店だけは正規のレア盤を日本よりも高い値をつけて売っている。品ぞろえもなかなかで、渋谷タワーの5階を見ているようだ。どうやら店主は名の通った評論家らしい。さすがに万引きされないようにここのCD棚には鎖の網が掛けてあった。ちなみに日本のCDで海賊版になっていたのは御太鼓座と尺八の山本邦山。同行したアメリカ人の友だちは海賊盤なんてけしからんと怒りながら、何枚もCDを買っていた。

@月@日
モスクワから数時間のところでコンサートがあるはずだったが、数日前から主催者と連絡がつかなくなったらしい。モスクワで窓口になってくれているオーガナイザーは、一応行くだけ行くか、なんてのんびりしたことをいってる。でも、もうあまりにも寒くって、外に出るのさえおっくうなので、予定より早めに帰国することにする。連日氷点下10度以下には、さすがにまいったし、日本を出て7週間、だしと醤油の味が恋しくなってきた。舌は保守的にできている。

@月@日
帰国。両替したらあまりの円高にがっくりくる。予定より20%以上目減りしてしまった。これで、仕事のほとんどない冬を乗り切らなくてはならない。また今年もCDと楽器を売らなくちゃ。誰か買いませんか。


Last updated: January 14, 2000