Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年11月)

(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
欧州ツアー初日、ドイツのシュトゥッツガルト。世界各国から集まった演奏 家とダンサーが3日間即興のイベントを繰り広げる小さなフェスだ。最終日のラスト、ギターのフィードバックだけで10分以上のソロをやる。すごくうまくいった。満足して顔をあげたら満員だった会場から半分くらい人がいなくなっている。がっくりこなかった、といえばウソになる。その話をきいた東京の吉田アミからメールがとどく。「もしかしたら会場のたったひとりの人生が私の音楽で変わらないともかぎらない、だから私は、どんなに皆に理解されなくても、絶対に自分の音楽をまげない…」。その通りだよな。オレはついつい、その日の客の嗜好を考慮した演奏をするくせが染み付いているような気がしてならない。知らず知らずのうちに手垢がついちゃうんだなあ。その辺から考え直さなくちゃ駄目だ。自分が納得行く演奏が出来たんだから、それでよしとする肝っ玉がオレには必要だ。やはり、客がどう思おうが自分の演奏をすべきだ。

@月@日
ふと気づくと、会場にも街中にも「OTOMO」の巨大な文字のポスターがそこいら中にはってある。他の共演者達もいぶかしそうな顔をしながらオレをからかう。いち出演者にすぎないのに、これはいくらなんでもまずいんじゃ…。なんて思っていたらなんと「OTOMO」という名のアフリカ人がドイツで起こした悲劇をあつかった社会派映画のポスターだった。アフリカにもおんなじ名前の人がいたんですねえ。

@月@日
ドイツ、ブッパタールでペーター・コバルトのユニット、グローバルヴィレッジのGIGに客演。スタジオでレコーディングもする。街をあるいていたら地元のペーター・ブロッツマンにばったり。夜は御近所のハンス・ライヒェルとバーへ。楽しい時間だった。

@月@日
昨夜は緊張のあまりねれなかった。ロンドンでAMMのキース・ロウ、杉本拓とオレのギタートリオ。このふたりとギターで音楽を共有できる力が自分にあるのだろうか? なんて考えだしたら寝れなくなったのだ。で、なやんだ末、ふたりの胸を借りたつもりで、のびのびやりゃいいか、なんて思った途端眠りに落ちた。さて当日。客席にはクリス・カトラー、チャールス・ヘイワード、スティーブ・ベレスフォードやロル・コックスヒルの顔も。ふだんざわざわしているクラブが水を打ったように静まりかえっている。見た目はかなりきている感じの若い客達がたじろぎもぜず耳をそばだててくれている。なにしろ僕らの音ときたら客のざわめきよりはるかに静かなのだ。すごい緊張感。自分の耳がどこまでも開いていくのが分かる。ほとんど動かなかったのにびっしょり汗をかいた。こんな共演が出来てオレはとても幸せだ。終演後デビッド・カニングハムがやってきて「今日は客がもう一人の共演者だったね」とひとこと。深い言葉だ。

@月@日
ロンドンからオーストリアのウェルスに飛ぶ。老舗のフェスMUSIC UNLIMITEDの今年の特集はオレ。オレ自身がリスペクトしてたり、注目する音楽家が3日間にわたり次々出演する。その数総勢24セット。日本からも沢山のミュージシャンが来て、楽屋はさながら高円寺あたりの居酒屋のよう。会場にもいろいろな国から音楽ファンやジャーナリスト、音楽家が集まってきて、いい雰囲気だった。しかもみんなすごくいい演奏をしてくれた。こんな贅沢な思いをさせてもらって、このまま死んでもいいとすら思った。始まるまでは、なんで自分がこの音楽を選んだのか、好きだって以外の明確な理由がわからなかったのだけれど、3日目になるとまったく表面上は違う音楽家達の共通点がみえてきたような気がする。こまかいことをここに書くスペースがないが、ものすごくインスパイアされた3日間だった。オレだけじゃなく、確実に何人もの人間の音楽観が変化したんじゃなかろうか。

@月@日
このフェスでOTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ QUINTETも欧州デビュー、その足で、短い欧州ツアーに出る。オレが正面からノンエフェクトのジャズギターを弾くだけでもこっちでは相当の話題になっているのだけれど、そんな話題だけでバンドを売るようなまねはしたくない。どうせやるなら、正面から誰のまねでもない一流の音楽をやらなくてはわざわざオレがジャズをやる意味がない。各地で名うてのオーガナイザー達が偵察にきてやがる。GROUND-ZEROのジャズ版を期待してるんだったらとっとと帰りやがれ。なんて思いつつも、まだまだ変化しきれずにいる自分が、客の盛り上がりとともにでてくるのが分かる。でもオレが行くべき方向はそっちじゃないってことも重々承知しているつもりだ。ツアーの最終日。マリファナで集中力をうしなってざわざわしているいるオランダの客。こんな時は以前だったら大音量で強引にだまらせていた。でも今それをやったら、客にこびるのと変わらない。ラストの20分を越える静かな曲の中盤、客のざわめきの中に消え入りそうな音量で、それでも堂々と演奏できた瞬間、やっと最初の ステップをクリアした気がした。真剣に見ていてくれた何人かには、僕らがやりたいことが伝わったはずだ。


Last updated: November 21, 1999