Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(98年9月)

(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
5年ぶりに自分の部隊でジョンゾーンの"コブラ"に参加。近年とかく批判の対象にされがちな80年代の傑作ゲームピースを、今の自分の視点で、新しい視点の音楽家とともに試してみたかったのが久々に参加した動機だ。批判をするならその上でしたかった。時代の変化とともに、ろくに知りもしない一世代前の実験を古いもの扱いすることで新しさを強調したり、逆に2〜3世代前の仕事を掘り起こして新しいもの扱いする風潮に、オレはもううんざりしている。いつもそれの繰り返しだ。大きなくくりで表面をなでただけのジャーナリスティックな見方より、興味あるのはもっと冷静に一つ一つの作業を見つめる視点のほうにある。

@月@日
京都大学西部講堂。ダグマー・クラウゼ、マリ・ゴヤティの前座でI.S.O.の演奏。9月末だってのに真夏のよう。空調のない講堂で蚊に刺されながら大汗をかいての演奏。打ち上げの席でダグマーが京都の酒と肴に舌鼓を打ちつつ、ボブ・マーリーのCDに合わせて歌いまくる。レコメンフリークに見せてやりたい。こんだから打ち上げはやめられない。

@月@日
フランスでソロ公演の後、ウイーン経由でサンクトペテルブルグへ。ロシアは2年ぶり。とにかく寒い。10月頭なのにもう氷点下だ。2年前に死んだセルゲイクリヨヒンのメモリアルフェスティバルがここで行われる。彼の死の直前、オレは彼とユニットを作ってレコーディングする約束をしていた。会ったのはその打ち合わせの時だけだ。ホテルに到着。いまだにソ連時代のままの国家管理のホテルで、なにかと融通がきかない。電話も通じにくいし、ロシア内のプロバイダーとリンクしてないかぎり、Eメールも打てない。日本にFaxを打つのに丸半日いろいろなセクションをたらい回しにされた。さらに悪いことに暖房が動いてない。これにはまいった。寒すぎて寝れず。

@月@日
銀行前で殴り合いながら列を作るロシアの様子をニュースで見たのが、半月前。さぞや街は大混乱かと思いきや、まったくそんな事はない。少なくとも人々のいでたちは2年前より豊かになったようにすら見える。久々に会うロシアのミュージシャンから「ニュースで見たけど、日本は経済パニックで大変らしいな」なんて言われて思わず苦笑。テレビを見たって実情なんてわからないって事だ。今や、ここではドルさえあればなんでも手に入る。とはいえやはりここで暮らしているアーティストの貧困は日本の比じゃない。ここで長く住み、ロシア人の画家との間に子供もいる日本人女性の友達に、その爪に火を灯すような暮らしの実態を聞かされる。実際、あのテレビで見たパニック以降、トイレットペーパーすら高すぎて手に入れられないとのこと。ルーブルのジェットコースター並みの下落と、ドル商品の異常な高値。輸入CDが50ドルもする。車に例えるなら、ピカピカのポルシェと、ボロボロの古い国産車しか存在しない世界。これじゃ、殴り合いもしたくなる。

@月@日
フェス初日。クリヨヒンの奥さんだったアナスタシアを中心に、かつての彼の仲間だったミュージシャンのセヴァ・ガッケル等による仕切りで市内数カ所で同時多発的にコンサートがくりひろげられる。ちょっぴり垢抜けなくて、いかにも手作りって感じが、気持ち良い。悪くいえば、行き当たりばったりで、全ての進行が、当日になってばたばたと決定する。メイン会場だけでも、コンサート会場はもとより、廊下からバーにいたるまで様々な場所で、コンサート、DJ、ファッションショー、ストリップ、写真展、ダンス、ハプニング、バザー、パフォーマンスといろいろな出しもんがグチャグチャに進行する。ロシア美人の抜けるような白い裸を前にクラクラ。アメリカから来たミュージシャンは楽屋でパスポートや財布を盗まれる。まるで祭りの縁日だ。あの煮えたぎるようなセルゲイのごった煮コンセプトを彷彿とさせる。いいぞ、いいぞ! もっとぐちゃぐちゃにしてしまえ! 初めて見るロシアのジャンク系ユニットZGA(ズガー)がめちゃくちゃ光る。

@月@日
フェス2日目。日本からきているフリージャズバンド人間国宝が快演。評論家の副島輝人氏等とも合流。楽しいひととき。

@月@日
フェス3日目の最終日。ロシアアバンギャルドの重鎮ウラジミール・タラソフ、ウラジミール・レジツキー等の演奏に唸る。見事! ラストはオレのソロ。セルゲイのCDと2〜3枚のレコードだけで演奏。大音量でターンテーブルのフィードバックとセルゲイのピアノ音が延々と唸り続ける作品。終演後セヴァが大泣きしながらすごい力でオレを抱きしめてくれる。セルゲイにオレの音は届いただろうか。


Last updated: October 17, 1998