Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2001年8月最終回)

(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
帰国早々フランスのメタムキンやレクタングルの連中、ドイツのアネッタ・クレブス、ウイーンのブーカルト・シュタングル、シカゴのデビッド・グラブスなどが続々別々のプロジェクトで来日、それぞれのセットで呼ばれているオレや杉本拓、Sachiko Mは猛烈な忙しさ。毎日何か国語もの言葉が行き交う打ち上げは、気分もメンツもフランスあたりのフェス会場そのままだ。それにしても忙しい。あまりの忙しさに、ちょっとタガがはずれただけなんだけどさ、夜中の4時に居酒屋のカラオケで、メタムキンの連中とギャーギャーとシャウトしたりマイクをスピーカーにつけてフィードバックさせたりして遊んでたら、お店の人が凄い勢いで飛びこんできた。「いいかげんにしろ! 何時だと思ってんだ!」。「す、すいません」。当然だよ、ほんと。大人なんだから。「大友さん一滴も呑まずにあれだからねえ〜」。ちくりと拓ちゃんに皮肉を言われてしまった。あ〜なんだか恥ずかしい。もう42になるってのに、大抵の場所で今や最年長だってのに。

@月@日
不思議なおっさんでかつ世界的な美術家、小沢剛に乗せられてワタリウム美術館で相談音楽なるおかしな演奏会をやることに。相談楽団のメンバーはharpyのイトケン、NOVOTONOの江藤直子、栗コーダーやDCPRGの栗原正己にオレ、いいメンバーだ。この4人が小沢さんの司会のもと、会場に来た人たちのいいなりになって、その場で音楽を作る。これまで血の出るような思いで積み上げてきた自分の創造性とか音楽性とかの自我はいっさい捨てて、たとえば客がソバをすする音のオーケストラをやれ…と言ったらそれをやらなくてはならない。しかも客のアイディアで音楽は次々更新されていく。過程そのものが作品…というコンセプトが気に入って引き受けたんだけれど、現実にはひどいもんになるんじゃないかと思っていた。ところが意外。面白かったのだ。僕ら専門の音楽家が思いもつかないようなプリミティブなアイデアに頭をこんこん叩かれながら、音楽は次々更新していく。次回は8月5日、最終回は9月2日。どちらも5時からワタリウム (TEL 03-3402-3001) にて。音楽の生まれる瞬間に立ち会いたい方はぜひどうぞ。

@月@日
白夜のノルウェイ、コングスバーグ・ジャズ祭。普通の有名なジャズメンがたくさん出るジャズ・フェスでの演奏。オレがこういうのに出るなんて日本じゃまず考えられない。70才を越えて、なお全盛期以上の演奏とクオリティを維持するセシル・テイラーのピカピカした音に感動したり、オーティス・ラッシュの不動のブルース魂にうならされたり、やはり70を越えたディレク・ベイリーやレジー・ワークマンの演奏にガツンとやられたり、いや〜5月に見たAMMといい年寄りはあなどれない、ちゅうか、かなわない。すごすぎるよ。渋くなるんじゃなくて、クオリティが上がって、今の視点で見ても新しい発見が沢山あるってのが素晴らしい。42才なんてまだまだやね。一番だめなのがオレくらいの年齢からすこし上までの中年連中。保守的で、古臭くて、くそ面白くもねえ。かつて好きだったある有名ジャズメンのふぬけた演奏には本当にがっくりきたぜ。そのうえ、そいつは新しいことをやってるつもりになっているのが悲しいよ。見えてないんだ、現状が。こんなになってたまるか! 年寄りに負けないくらいの演奏をしなくちゃ。オレが演奏した会場は昨年まで刑務所だった建物の囚人用屋内運動場。こんなうすっ暗い狭いところで運動もねえだろうがって感じのスペース。でもオレにはぴったり。ここでオスロのミニマル・ビデオ・アーティスト、ヒョル・ビョルジンゲンの作品を全身に浴びながら4日間毎日演奏。体が振動するくらいの重低音と、耳が凍り付くくらいの高音によるミニマル・サウンド・トーチャー。評判を呼んだらしく日増しに客が増えて、最後は入りきれないほどに。映像が音に反応するようになっていて、感電しながら演奏している錯覚に陥る。これじゃ刑務所で電気ショックだ、あはは。


Last updated: August 17, 2001