(フリー・ペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)
5月末にベオグラードで開催される予定だったニューミュージック・フェス、「リングリング1999」がNATOの空爆でいったん中止になって、日本から出演予定のHOAHIOとI.S.O.を始めほとんどの国外ミュージシャンのベオグラード行きがなくなってしまったこと、それでもめげずに主催者がユーゴ国内のミュージシャンを集めてフェスを続行、さらにはEメールで出演予定のミュージシャンや過去に出演したことのあるミュージシャンに呼びかけ世界各地で「リングリング・アラウンド・ザ・ワールド」なるフェスをやろうとしていること、ここまでは先々月号と先月号に書いたとおりだ。今月はそのつづきから。
@月@日
Eメールの力って本当にすごい。ほぼ一夜にして世界中のミュージシャンの間
をメールが飛び交い、わずか数日のうちに欧米や日本の何十という都市で「リングリング・アラウンド・ザ・ワールド」の開催がきまってしまった。カナダ、イギリス、フランスのいくつかの都市でオレやHOAHIO、I.S.O.が出る予定のフェスの主催者にも早々打診、「リングリング」との連携が決まる。ロッテルダムのホテルにいるオレにも、手にとるように状況が刻々と伝わってくる。空爆下の主催者達にとっても、多分大きな励みになったんじゃないだろうか。でも、ここまで事態がおおっぴらになってくるとベオグラードに住む主催者のことが心配になってくる。こんなことをやって大丈夫なのだろうか? 反政府主義者の烙印を押されてひどいめにあったりしないのだろうか?
@月@日
主催者から早々の返事。「私は音楽に政治的なスローガンをこめているわけではないし、心配しなくても大丈夫。むしろ名前を出してはっきり伝えてほしい。」戦時下での生活経験のないオレには、この言葉にいったいどれだけの重みと勇気と危険度があるのか想像できない。早々、朝日新聞の記者に状況を伝え、どう記事にしたらよいか検討する。新聞側でも独自に彼とコンタクトを取り名前をだして記事にすることにする。
@月@日
朝日に大きく記事がでたらしい。ぞくぞく友だちから報告のメール。この間
にも私やHOAHIO、I.S.O.の一行はカナダ、フランスを行き来し、あわただしくコンサートスケジュールをこなす。日本ではほとんど演奏していない女性ユニットHOAHIOが行く先々で大きな反響。アメリカでのCD化や次のヨーロッパ公演まできまる。本当なら彼女達の喜ぶ声がベオグラードでも聞けたのにと思うと、いくら「リングリング・アラウンド・ザ・ワールド」が順調に進んでいるとはいえ、素直に喜ぶ気にはなれないなあ。
@月@日
新聞に大きく出て以降、ベオグラードからのメールが途絶える。現地でのフ
ェス開催に追われているのか、それとも電気がこないだけなのか、こちらでは状況がわからない。心配。冬のようなスコットランドから珍しく快晴のロンドンへ。ここでもレコーディング、コンサート、インタビューと忙しくスケジュールをこなす。
@月@日
11月のフェスのキューレイトの仕事でオーストリアへ。ここでやっとベオグ
ラードからのメールを受け取る。現地でも空爆の中、電気を確保し何十人ものミュージシャンをまねいて「リングリング・アラウンド・ザ・ワールド」を無事開催、大成功だったらしい。よかった。胸をなでおろす。戦争も終息へむかっている気配。やっと名前を出せるときがきたようだ。フェスの成功おめでとう、我が友人ボヤン・ジョルジュビッチ、そして独立ラジオ局B-92の皆さん。でもこんな形での成功なんて2度とごめんだぜ。来年はベオグラードでどろどろしたあの独特のコーヒーを皆で飲みたいなあ。