Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2001年6月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
吉祥寺のウチの近所になに屋だかわからない怪しい店が出来た。1年前の春だ。入口には謎のオフジェがドンとあって「東風」の文字。週末になると深夜までこうこうと明かりを灯している。出入りしているのが怪しい風体の若い連中ばかりだし、どうもライヴをやってるような気配すらある。それに外に漏れ聞こえてくるのはノイズみたいな音だし…。で、あんまり気になるんである日看板をちゃんと見てみた、らどうもCD屋らしい。おまけに時々ライブもやっているらしく、スケジュールには敬愛する永田一直や岸野雄一師匠、湯浅学教授の名前まであるでないの。あれれ、遠慮することはねーか。入ってみると、レジにはセクシーな女性が座っていて、しかもインタネのエロサイトを見てるし、その奥ではタオルを頭に巻いたケンカの強そうなあんちゃんがソバをずるずるやってる。店内はグッドチョイスのCDばかりか、古着やらメンコやらなんだかわからないサイケな物体までごちゃごちゃに置いてあって、いい感じじゃないの。その上、良く見るとオレのCDもちゃんとある。すっかり気をよくして、挨拶してたら、いつのまにかエイプリル・フールにここで演奏することに。この時点でソバを食っていたのは店長の露骨くんであることが判明、セクシーな女性は露骨くんの彼女だった。

@月@日
約束のエイプリル・フール。ヴォイスの奇才、吉田アミ仕切りで「東風」入場無料ライヴ。この日の吉田アミやユタカワサキの演奏は、世界のどこに出しても通用する堂々たる内容。感動した。ちなみに、この日最初に演奏したのが、店長の露骨くんで、なんと彼は店のレジに座り客の応対もし、CDを何枚も売りさばきながら演奏していた。恐るべし70年代生まれたち。オレも彼らに負けないよう精一杯演奏させてもらいました。

@月@日
「東風」を東の横綱としたら、代々木にあるギャラリー「OFF SITE」はあらゆる意味でまったく逆の西の横綱だ。「OFF SITE」は美術家であり音楽家でもある伊東篤宏らの手により、やはり昨年オープン。高層ビルの谷間にある木造家屋を利用した小さなギャラリーで、趣味のよい小さなカフェやブック・CDショップもあり、優れた若手美術家の発表の場にもなっているが、なにより僕らにとってありがたいのは、ここで月に何回か開かれるコンサートだ。秋山徹次や中村としまるによって毎月行われている「インプロヴィゼーション・ミーティング」や、伊東自身による「絶対アンテナ」のシリーズ、杉本拓による「コンポーズド・ミュージック・シリーズ」は、世界中の新しい音楽の現場を見てきているオレが見ても目がは離せないくらい刺激的だ。ブーカルト・スタングル、Sachiko M、ブレッド・ラーナー、ケビン・ドラムなど出演者の顔ぶれを見ただけでも即興音楽の今が見えてくる。ちなみに今この日記をNYで書いているのだけれど、先週のニューヨーク・タイムズに、中村としまるの巨大な写真とともに彼らのことを書いた大きな特集が組まれていた。ニューヨーク・タイムズだからどうだってこともねえが、地元日本の音楽ジャーナリズムが何年にもわたって彼らに対して冷たい無視(ちゅうか知らないだけかもしんないが)を続けていることを考えるとなんだか痛快な気分だ。

@月@日
久々のミルクでのライヴ。映画「風花」のお花見イベントで、僕らはサントラのライヴ・バージョンを演奏。難産だったサントラ作りからもう1年。ステージから相米監督の独特の頭が見える。嬉しい。監督、小泉さん、浅野さん、永瀬さん、来てくださった皆さん、そしてミルクの皆さん、どうもありがとう。すげえ楽しかった。なんだかんだ言ってもオレは東京が一番好きだ。るりさん、またやらせてね。


Last updated: June 17, 2001