Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年5月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
空爆がはじまってからすでに1カ月以上。ベオグラードの友人からのメールも完全に途絶えてしまった、と思っていた矢先に突然新しいアドレスでメールが舞い込んできた。5月末に行く予定だったベオグラードのフェスティバル「RING RING 1999」の主催者からだ。

「Dear Otomo and Sachiko、私達はまだ生きているよ、それもいいムードで。映画、本、音楽、友人たちが高い意志で守っている。沢山の自由な時間が出来てしまったおかげで、いろんなクレイジーなアイデアが次々とあたまに浮かんでくるんだ。フェスティバルをやめる必要なんてないんじゃないかって具合にね。無論ここにミュージシャンを呼ぶことは出来ないけれど、世界中でRING RINGフェスをやればいいんじゃないかって。(中略)もちろんユーゴのミュージシャンだけでフェスを出来なくもないが、フェスとしてはいいアイディアとは思えない。そこで世界中の友人達にRING RINGのために、どこででもかまわないから演奏してほしんだ。もちろん僕らもベオグラードでフェスをやる。それがたとえシェルターの中だとしてもね。日程は5月29、30日。僕らのチームのデザイナーがポスターやチラシを作って”Ring Ring - Around the World 99 festival”の宣伝をする。(以下略)」
この後も彼とは何度かやりとりをして、それは今も続いている。私が一番心配なのは、こんなことをやって彼が危険な立場にならないのかってことだ。彼から来た返事は、ミュージシャンや音楽を政治的なプロパガンダに使いたくないし、このフェスにそういう意図を込める気はないのだから心配しないでくれって内容だった。オレの音楽には戦争反対のメッセージはないし、どんな政治勢力や宗教、人種とも無縁だ。それにステージで戦争反対なんていう柄じゃないし、効果のないことはしたくない。ただ、自分の計り知らぬ事情でむりやりコンサートが中止になったり、行きたいところにも行けず、友人の自由も奪われているってのはどう考えても理不尽すぎる。本来だったらこの日はベオグラードで演奏する予定の日だったのだ。その後コンサートのキャンセルを知ったイギリスのオーガナイザーが5月29日はスコットランドで、30日はロンドンでFilamentの公演を企画してくれた。ならば僕らのコンサートにきたかもしれない人達の為に、実際にコンサート会場に集まった人達とともにこの日は演奏することにしよう。早々それぞれの主催者にRing Ringとの連携を打診する。ベオグラードにもOKの返事をだす。

@月@日
ロンドンのクリス・カトラーからもRing Ringに関するメール。彼もロンドンでRing Ringの準備をはじめている。他にも世界各地で同様の動きが始まった。一夜の内に世界中をe-mailが駆け巡る。爆弾や暴力は憎しみを生むだけだけれど、たった一本のメールが世界中のミュージシャンを動かしている。クリスとも2年前にベオグラードの同じフェスで一緒に演奏している。本当に楽しい平和な時間だった。あの時会場になった映画館ももう今はない。何度でも書くけれど、あの空白の楽しい平和な時間はいったいなんだったんだろう。前号で音楽には戦争を止める力なんてないって書いたけれど、世界中を駆け巡るメールを見て、少なくとも生きる希望を与える力だけはあるってことに、今さらながら気がついた。そうだ、この日の演奏を各地で録音して「Ring Ring 1999 Live」ってCDを出すのはどうかなあ。さっそくベオグラードにメールをだす。


Last updated: May 14, 1999