Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2000年5月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
吉祥寺でNOVOTONOのコンサート。日本では2年ぶり。そもそもほとんど活動休止状態だったこのバンドが動き出したのは、僕らがこのバンドでなにかまだできることがありそうだと思ったことと、昨年のオーストリア公演で手ごたえがあったこと、そして岩手在住の熱心なファンNOIZUくんの働きかけがあったからだ。たった一人の好意だって、すごく嬉しいもんだ。僕らは半分はNOIZUくんのために演奏するつもりだった。「山下毅雄を斬る」に収録された「ガンバのバラード」なんかも演奏した。ところが当日予想もしなかった親友の事故死で、彼はコンサートにこれなくなってしまった。こういうときって言葉も出ない。8月20日クアトロのNOVOTONOのライブ、招待するね。

@月@日
代官山のギャラリーで電子音ユニットFilamentのコンサート。今はっきり自信をもって自分の音楽的な成果が見えているのは、このユニットだけだ。無論コンセプトを創ったSachiko Mの力は大きい。杉本拓とSachiko Mの突出した音楽感には影響されるところ大だ。ここのところ欧州での受け入れられかたとのあまりのギャップに、もう日本ではFilamentをやりたくないとすら思っていたけれど、今日みたいに良い演奏に対して、それなりのレスポンスがある現場に出くわすと、捨てたもんじゃないなって思う。企画してくださったHEDZの皆さんありがとう。

@月@日
前回の日記でオーストリアの極右政権のことを書いた矢先、今度は東京都の 都知事の「三国人」発言。知事いわく「差別意識はない」そうだ。学校で「いじめ」事件が発覚したとき、いじめる側は「いじめたつもりはない」っていうのと良く似ている。意識的じゃなければ差別も許されるってか? もしも、都の代表にえらばれるような人に、その程度の歴史認識と、差別への無神経さがあるのであれば大問題だ。オーストリア同様、東京でも大規模なデモがおこったりリコール運動がおこったり、新聞がそれを支持したりするかと思っていた。なのになんだか怒ってる人があんまりいない。前回オーストリアの状況について「極右政党がある一方で、それに正面から反旗をひるがえす市民が沢山いる。希望の灯は消えちゃいない」と書いたけど、日本の状況は、正反対だ。どんな意見であれ、それに反対する力があって社会は初めて健全に機能する。それがない状態がどんなに恐ろしい状況を産んでしまうか、僕らは真剣に考えるべきだ。

@月@日
相米慎二監督作品「風花」がクランクインする。音楽はオレ。浅野忠信、小 泉今日子主演のロードムービーだ。映画は1年ぶり。その上めずらしく撮影前から音楽の依頼がくる。嬉しいことだ。相米監督は電子音どころかエレクトリックの音楽がことごとく嫌いな人で、その監督がよりによってオレに音楽を依頼してくるってのが、また嬉しい。ちょこっとだけど浅野さんや小泉さんにお会いできたのも嬉しかった。嬉しいことずくめだ。アコースティックだけでどこまで今の自分の音が作れるだろうか。

@月@日
恒例春のヨーロッパツアーの始まりだ。着いた翌日オスロのホテルで早朝非常ベル。客はみなたたき起こされて、非常階段で外へ。結局煙もでないくらいのボヤが隣のビルであっただけなんだけれど、この時ギターを持って長い階段をおりたのが悪かったらしい。部屋にもどった直後にギックリ腰になってしまう。初めての経験だ。ゆっくりしか歩けない。とほほ。旅行カバン用の太いベルトを腰にぐるぐるまいてどうにかステージをこなす。この先1カ月間のツアーが思いやられる。

*この後、昨年書いたRING RINGフェス参加のためユーゴスラビアのベオグラードに向かいます。戦後1年に満たないユーゴの詳しいレポートは来月に。


Last updated: May 9, 2000