Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(99年3月)

(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)

@月@日
イアン・ケルコフ監督の新作「シャボン玉エレジー」のサントラをレコーディング。映画をやるときはいつものことだけれど、時間との勝負。今回もイアンから具体的な音楽のアイディアがオランダよりFAXされてきたのがスタジオにはいる前日。赤裸々なセックスシーン連発の無修正ビデオとFAXを交互ににらめっこしながら徹夜で曲を書く。ドキドキする間もなくその足でスタジオ入り。スタジオでも艶めかしい絡みをみながら演奏。録り1日、ミックスとエディットを2日で仕上げ、超特急便でアムスに送る。音楽の出来には自分でもかなり満足。これでやっと寝れる。しかし特別上映予定のロッテルダム映画祭はすでにはじまっているというのに。間に合うのか?

@月@日
ロッテルダム映画祭に行っているプロデューサーから「素晴らしい出来、評判良好」とのメールが入る。まにあったんだ。イアンの奴、きっと音楽がとどいて寝ずに2〜3日で編集、最終日ぎりぎりに駆け込んで上映したに違いない。出来が楽しみ。

@月@日
通販で注文した「黄金の日々」のビデオが届く。この1978年のNHKの大河ドラマには当時の状況劇場の面々が松本幸四郎や緒方拳なんかとためをはってでてたりして当時ティーンエイジャーだったオレは夢中になって見ていた記憶がある。夢中になっていたくせに細かい筋はまったく記憶のかなたで、登場人物もやたらギラギラした唐十郎や根津甚八が印象にのこっているくらいだった。が、今見てみると、いや〜、やっぱ面白い。あの頃のエネルギーが役者の顔にちゃんと出ている。夏目雅子の美しいこと。緒方拳の表情一つ一つにドキドキするなにかがある。エンターテイメントはこうでなくちゃ。それにしても、今考えると、NHKの看板ドラマに当時のアングラの連中を起用するってのはかなり大胆なことではなかったか。それともすでにアングラがメジャーになだれこむ80年代的な現象がそこここで始まっていた時期なのか。この頃を境にフリーミュージックの小さなワールドに世ばなれしてしまったオレにはそのへんのところがよく分からない。

@月@日
台湾映画「LOVE GOGO」を見る。ここんとこ中国系の映画は立派な巨匠仕事か、ハリウッド進出話ばかりが多いような気がして気持ちが遠のいていたけれど、これはまるで自分のまわりの風景や人生を見ているようで面白かった。素敵な青春ドラマだ。多分かなりの低予算作品なんじゃないかなあ。巨万の金と人を動かす景気のいい映画も面白いが、出来る範囲の方法を使って、小さい穴から生や死の深遠、喜怒哀楽を見せてくれる作品がオレは好きだ。イアンもパスポートサイズのデジタルビデオで録って編集、あとからフィルムにおこす方法をとっていた。みんな録りたいもんがあればビデオでどんどん作って作品にしちゃえばいいんだ。「MADE IN HONG KONG」の試写ももうじきはじまる。これも楽しみな作品だ。サントラCDだけはずいぶん前に聴いていてとても良かったのだ。新しい方向をもったやつらが頑張ってるのを見るだけでもすごい励みになる。いつか彼らと組んでみたい。

@月@日
イアンの新作がビデオで送られてくる。少しセンチメンタルすぎるけど、いいできだ。風呂場であそこの毛をそるシーンの素晴らしいこと。我ながらここにつけた音楽は気に入った。ラストタンゴインパリのガトー・バルビエリと元祖ジャパニーズラウンジの山下毅雄にあのシーンごとこの音楽を捧げたい。


Last updated: April 5, 1999