Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2002年2月後半)

今回は2月後半、冨樫森監督作品の作業風景から

ところで本日デレク・ベイリーがジャズのスタンダードを演奏している新作『Ballads』をゲット。いやもう、このひとは何を演奏してもほんと綺麗な音で…、部屋で爪弾いているような、ベイリーのある日の風景を見ているような感じで、今も、これ聴きながら書いています。まじ、すげえいいですよ。あ、それからOTOMO YOSHIHIDE NEW JAZZ ENSEMBLEの新作『DREAMS』も出ました。PHEWさん戸川純さんの歌をフューチャーした歌物です。それから、3月に録音したOTOMO'S NEW JAZZ QUINTETのライブ盤は無事マスタリング終了。7月25日DIWより発売です。はじめて本格的にジャズ・ギターを弾いたアルバムでもあります。どちらも自信作です。お楽しみに。では日記をどうぞ。


@月@日
パリから帰国早々、冨樫森監督と音楽打ち合わせ。相米慎二の『ラブホテル』や『台風クラブ』で助監督をつとめていた彼は、オレと同じ年の42歳。昨年撮った『非バランス』で、相当評判になっている切れ者(しかも男前)だ。今回は小学生の男の子と中学生の女の子の恋愛を軽いコメディタッチで描いた作品『ごめん』。う〜ん、なんだかタイトルはいかしてないが、ラッシュを見ると内容は抜群にいい。どこにどんな音楽を入れるか監督やスタッフとあ〜でもない、こうでもないと議論をめぐらす。

@月@日
音楽方針がだいたい固まってくる。なにかとつとつとした不器用なバンジョーの響きと、カリプソの4コードがず〜っと頭を駆け巡り出す。友人からバンジョー・ギターなる珍楽器を借りてデモ作成。早々皆にに聴いてもらう。バンジョーのほうはまずまず好評。が、カリプソは一番年配のプロデューサーからベラフォンテの曲に似すぎてないかとの指摘。あららら、確かに良く似てる(苦笑)。すかさず方向修正。ちなみに指摘してくれたのは70年代ATGで日本のインディーズ映画を世界に知らしめた敏腕プロデューサーの佐々木史郎氏。彼はドリフの『8時だよ全員集合』の構成作家でもあった。僕らの世代は好むと好まざるとに関わらず、皆彼を通過してきているわけだ。

@月@日
吉祥寺GOK SOUNDにて録音。今回は10人編成の部分だけ、珍しく丁寧にスコアを書いた。打楽器の高良久美子が「この譜面誰に書いてもらったの?」なんていいやがる。「うるせえ、おれだって本気だしゃ、こんくらい書けるんだよ」。ま、いつもきたない譜面ばかり見せられているオレの映画音楽の常連らしい言葉でもあるか。彼女はオレの映画音楽には欠かせぬ存在だ。こんなへらず口をたたき合いながら録音はいい感じでさくさくと終了。ちなみにここGOK SOUNDのチーフ・エンジニア近藤祥昭氏とは十数年の付き合い。GROUND-ZEROのサウンドも、映画『青い凧』のアコースティックな音も、近年の作曲作品の音響も全てここから生まれた。偶然だけれど、近藤さんは高校の先輩でもある。ただしオレが入った時に近藤さんは卒業したので、在学中には会ってない。さらにその先輩には遠藤ミチロウ氏がいたらしいけれど、年齢が違いすぎてこれも面識ない。それに高校たって、かなりさぼってたし、いつのまにか、ずぶずぶと音楽のとりこになって、成績はいつも学年最下位、驚くくらい勉強しなかった。春休みにせっせと図書館に通って出席日数不足と赤点の分を補い、やっと卒業。卒業に尽力して くれた担任の大内先生には感謝の言葉もない。あ〜もう長いことご無沙汰しちまってる。

@月@日
ダビング。フィルムに台詞や効果音、音楽といった音を丁寧に貼り付けていく作業。オレが一番好きな工程だ。ここで見ることが出来るサウンド・エフェクトマン達の職人技は高度な作曲、あるいは高度なコラージュやリミックスに匹敵する。いやそれ以上だ。ばらばらだったいくつもの音と絵が、時にひとつに、時には別々の運動体のように意味を持ち出す。やっていてドキドキする瞬間だ。今回は初顔あわせのエンジニア深田さん。やることひとつひとつが見ていて本当参考になる。が、こともあろうに、ちょうとダビング・スタジオに入った日に恒例の花粉症が来てしまった。こいつが始まると集中力が落ちる。あ〜もう。ティッシュの箱をかかえながら監督、助監督、プロデューサーの久保田さんや佐々木さん、美由紀さん、編集の川島さん、スクリプターの透子さん、そして深田さんなんかと、ああでもないこうでもないと意見を戦わす。ところが意見を言うそばから鼻水とくしゃみ。さまにならないこと甚だしい。

@月@日
深夜、フィルム完成。満足。いい映画になったと思う。いつも1本終えると体はボロボロだ。冨樫監督とは長い付き合いになる予感。もうこれはオレだけの、誰にも理解されない感じ方かもしれないけれど、相米監督の遺作になってしまった『風花』も、その前の『あ、春』も、いやその前の『夏の庭』や『お引っ越し』も、実は皆再生のための死を見つめる物語で、だからその先の再生の話を相米監督はいつか撮りたかったはずで、でも、安易な再生話なんて、相米オヤジはクソクラエだったはずで、そうなるとその先に本当に再生の話があるんだとしたら、それは今回の『ごめん』みたいな話なんじゃないかなって。そんな訳で、表面上のスタイルとか方法ではなくって、本当の意味で相米監督の意志を冨樫監督が受けついでいるような気がするんだけど、違いますかね、監督。こんなこと一人でグダグダ書いてもしょうがね〜か。そんなことより映画、ぜひ見てやってください。今年の暮れに公開予定です。


追伸:テレビを見てたら花粉症にヨーグルトが効くってんで、藁をもつかむ気持ち、毎 日ためすこと1週間。あれだけ治らなかった症状がみるみるよくなり2週間後には、ひどい症状はほとんど出なくなった。皆に効くわけではないかもしれないが、少なくともオレには効いた。インキャパシシタンツの美川さんも効いたといっていたから、間違いない。ちなみに、ヨーグルトはちょい高めの生乳100%で砂糖が入ってない天然もの。これだと美味いし、ほとんどヨーグルトを食う習慣のなかったオレでも毎日食える。


Last updated: April 17, 2002