Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJAM日記(2004年2月中旬〜3月中旬)

こんにちは〜。

再びサンフランシスコからです〜。DVDの撮影は無事終了。明日からソロの録音です。腰のほうもだいぶよくなり、あき時間というか、待ち時間が結構あるおかげで日記の筆もすすんでおります〜。

あ、いかりや長介さん、亡くなられたんですね。お会いしたことはもちろんないのですし、とりたててドリフファンではないのですが、でも、近年のいかりやさんの顔と芸風が好きでした。合掌。

東京はもう桜の開花宣言が出たみたいですが、月末の帰国までに桜残ってるかな〜。もっとも東京にいれるのは3日だけで、その後はすぐにソウルにむかいます。

というわけで、先月から今月にかけての日記です。どうぞ。


@月@日
万歩計購入。笑わないでください。なにより歩くのが腰に良いのです。運動不足で筋力が落ちているのが腰痛の根本原因、まずはよく歩くこと…これ、かかりつけの腰のドクターに毎回のように口すっぱく言われる言葉。で、オレの場合、内科検診でもまったくおなじことを言われる。「大友さん、運動しないと糖尿になって死にますよ。運動できないなら、とにかくせっせせっせと歩いてください」。糖尿予備軍と診断されてもう何年にもなる。気持ちはまるっきり若いつもりだけれど体は嘘をつけない。着るもんで若く見えても、おなかの贅肉はもう立派に中年。これ読んでる皆さんも、あっという間ですよ、他人事じゃないですよ。中年になるのなんて、努力しなくたってなれるんですから。ちなみに万歩計はというと、東海道53次を歩くゲームになっていて、日本橋から京都まで、各宿場ごとに「あと何キロ」みたいな目標設定が出できて、ま、これで張り合いが出て、なんか歩く気が起る…という仕掛けになっていて…あはは、確かにいつもより今日は歩いた。う〜ん、でも3日坊主にならなければいいが。

@月@日
中村としまる、Sachiko Mとオレの3人による2枚組CD『Good Morning Good Night』のマスタリングを聴く。夏に録音、冬に何度かマスタリングの後、今は最終チェック。この作品は、自分の中では、今までのどの作品にも似てないという意味でとても重要だ。同時期にすすめているFilament BOXとともに(これも主にSachiko Mがデレクションを、中村としまるがマスタリングをしてくれている。特に自宅で録音した新作は、上記のトリオ同様、非常に重要な録音だと思っている)今自分がかかわっている中では、もっとも「挑戦」といえる内容だ。「挑戦」という言葉を使う以上、これまでに参考に出来る基準がないとも言える。だからいいのか悪いのか、正直なところ自分でも判断できない。ちょうど98年に初めてFilametのCDを出した時がそんな感じだったけど、でもこれも今聴くと、なんだか音楽にしか聴こえないから不思議だ。いずれにしろ、判断出来ないけど、これにはなにかある…という直感みたいなものだけで3人で作った作品だ。中村としまるの耳は本当にすごい。彼とSachiko Mの中でオレはもまれっぱなしだ。そうそう、彼の最近リリースしたギター・フィードバックの作品『サイドギター』も大名盤だと思うんだけど、日本じゃまったく紹介されないみたいで残念。イギリスじゃ彼スターなのになあ。トリオの2枚組CDも、Filament BOX(5枚組)のほうも、おそらく5月か6月には出ると思う。どう聴かれるのか、反応が楽しみ。こういった作品は、聴く人がいて、その人の中で初めて音楽になる。

@月@日
ベルリン「UCHIAGE FESTIVAL」。日本からは杉本拓、中村としまる、秋山徹次、Sachiko M,吉田アミ、宇波拓、そしてオレが参加。ベリンからはクリストフ・クルッツマン、アクセル・ドナー、アンドレア・ノイマン、アネッタ・クレブス、ロビン・ヘイワード、カイ・ファガシンスキー、トニー・バック、ブーカルト・バイン他沢山のミュージシャンが参加。日独混合様々な組み合わせで3日間のフェスが行われる。

初日のオレのセットは「ミイラになるまで」。この作品3年前に釧路でやったのを最後に打ち止めにするつもりだったのだけれど、ドイツ語版のCDを出したクリストフ・クルッツマンのたっての希望に、口説き落とされてしまった。いずれにしろ過去10年間、この作品は一度として同じメンバーや同じスコアで演奏されたことがないわけだし、また新たに作品を書き換えればいい…と思って承知した。今回は指揮者であるわたしがミュージシャンをコントロールできないように、何通りかの別々の譜面をミュージシャンに渡した。おなじサインを出しても、ミュージシャンによってやることがまちまちになる。あとは各自の即興のセンスにまかせた作品にしたかった。予定としてはわたしのコントロール出来ないところで、いろんなことが起ってくれることを願っていた。参加したのは日本側から3名、ベルリン側から7名。結果はというと…もう素晴しくとぎすまされたいい音で、とてもいい演奏だったと思うのだが…でもしかしなのだ。なんか現代音楽風というか、即興風のスタイルを、素晴しくハイクオリティで演奏しているようになってしまった。なんでだろう。そんな風に演奏してほしい…なんてどこにも書いてないし、即興で演奏できるようになってるんだから、もっと自由にやってくれてもいいのに。どこかで、こういう音楽はこうやるべし…という規範が出来上がってしまっていて、その重力圏内で演奏することが即興になってしまってるような気がしてならない。無論そういう演奏になってしまったのは参加ミュージシャンが悪いわけじゃない。ほっておけばそうなってしまうものを、なんらかのバイアスをかけるのが作曲なわけで、だとしたらそういうディレクションができなかったオレの力不足だ。さらに言えば、オレの作曲方法の中に、そういう方向性がこれまであったからこそ、意識するしないにかかわらず、参加ミュージシャンに、負のバイアスをかけてしまったとも言える。杉本拓のギターの音がくさびのように、オレの脳髄に響いて重力の呪縛に拮抗してくれる。なんだか今回のフェスはオレの中では、そういうったこととの戦いに終始しなくてはならなくなる予感。

@月@日
フェス2日目。今日は旧友トニー・バックと演奏。オレはいろいろ新しいことをやりたがるくせに、実は意外とこういう旧来のセットのほうが、いわゆる客受けのいい、もしかしたら実際に「いい演奏」といえるような演奏がが出来てしまったりするところが、自分でももどかしくとても複雑な気持ちだ。オレは素直にオールドスクールの即興をしているのが性にあってるのだろうか? この日はCOSMOSの演奏が素晴しかった。もうある種の完成した領域にこの2人はいっているような気がする。メールをチェックしてたら韓国の即興ドラマー、キム・デファンさんの悲報。キムさんと最後に共演したのは2002年の法政大学のときだ。このとき会場にいた相米監督とも、この日会ったのが最後になってしまった。キムさんもダイナミックな色気ある素晴しい顔をしていたなあ。昨年ソウルで会った時はハレーを乗り回してとても元気そうだったのに。残念。合掌。

@月@日
3日目。そういえばこのフェスの名前「UCHIAGE」は日本語の「打ち上げ」からきている。2002年の秋に吉祥寺で3日間やったAmplfy Fesのときに、僕等日本のミュージシャンがなによりも重要なのは「打ち上げ」だって話をさんざんして、その上「打ち上げ」って言葉を共通語にしちゃえ…と言い出したのがそもそもの始まりで、そのとき来ていたクリストフ・クルッツマンが好んでこの言葉を使うようになった。「Karaoke」とか「Onkyo」みたいには普及しなさそうだけど、でも「打ち上げ」重要だと思いませんか? 「打ち上げ」が楽しくできる=仕事もうまくいった=音楽も良かった…ってことですから。で、いつのまにか「乾杯」のときに「UCHIAGE〜」というようになって、でフェスの名前にまでなって…これどんどん元の使用方法からずれてると思うのですが、言葉が異文化で使われるってのはそういうことで…ま屁理屈はいいや。その名前のとおり僕等は連日のようにフェスのあと打ちあがり、朝方までおおさわぎでした。さすがに3日目になるとへとへと。今日は杉本拓ギターカルテットで演奏。なんとオレが弾いたのは30分間で10音ほど。でもとっても美しい世界でした。連日4組のミュージシャンが出て、いい演奏があったり、う〜ん、ちょっと失敗かなってのがあったりで、いろいろだったのですが、今回特に印象に残ったのは若手のクラリネット奏者カイ・ファガシンスキー。彼の演奏は実に味わい豊かで面白かっです。でもって、演奏後は今日も打ち上げ。京都のオーガナイザーの田村さんや古後さん、ベルリン在住のトロンボーン奏者小池くんも連日のように来ていて、なんだか日本なのかベルリンなのかわからない状態で、わいわいがやがや、明け方まで。そうそうベルリンといえば、忘れていけないのは日本料理屋の「ささや」さん。ぼくらは2日とあげず昼間はここに繰り出しましては、さばの塩焼き定食を食べたり寿司やそばをほおばったり…。ささやさんおさわがせしました。また5月におじゃまします〜。

@月@日
アネッタ・クレブスの家でSachiko Mのソロ。平日の昼間だというのに20人以上もの人が集まる。アクセルやアンドレア、カイもいる。アパートでライブが出来るってのはうらやましいかぎりだ。サイズはオフサイトを想像してもらえればいいだろうか。ベルリンではこの手のホームコンサートがちょくちょく行われている。外の車の音やいろいろな雑音とサイン波のアンサンブルが絶妙。無響室的な創作よりも、こういう方が彼女らしい。そうそう彼女は今、代々木のオフサイトでサウンド・インスタレーションもやっている。延々と続く彼女のソロみたいな作品で、シンプルなサイン波とショートノイズのみでどこを見ても2度と同じ瞬間がない作品。ここでもオフサイトの外から聞こえてくる様々なノイズとのアンサンブルが美しくて、あっという間にすぐ時間が過ぎてしまいます。秀作です。

@月@日
今度は場所を移してウィーンで「UCHIAGE FES」。クリストフの他に、ブーカルト・シュタングル、ヴェルナー・ダッフルデッカーが主催で、先の日本人ミュージシャンとウィーンのミュージシャン、様々に組み合わせで、やはり3日間行われる。ここでも「ミイラになるまで」がオープニング。ベルリン・バージョンの反省を踏まえ、多少改善したスコアで望む。こちらのほうがオレは楽しめたけど、でも根本的な問題は解決していない。これはこれからのオレ自身の課題だ。ベルリンの時もそうだったが会場のPAのあり方もとても気になった。この種の音楽にとってPAはとても危険な存在だ。そもそも音の微細な響きを遠近感をもって聴取するところに、この種の音楽のよさがあると思うのだが、安易にPAを通すことで確実に遠近感が失われてしまう。かといって大きな会場ではPAを使わざるを得ない時もあるし、楽器によってはPAからしか音の出ない電子楽器もある。GROUND-ZEROをやっていたころからそうだったのだが、このへんの楽器のバランスそのものが音楽の骨格になることすらある音楽で、全てを初対面のPAの人にまかせるのは、実は双方にとってとても乱暴なことだ。終演後PA担当のクリストフさんとこの辺の話をする。彼はこのへんのことをよく知っているベテラン・エンジニアなので、逆に彼の気分を害してしまったかもしれない。ところでウィーンの宿泊は全員西駅駅前の4つ星ホテル。打ち上げの2次会はANODE札幌ツアー以来恒例になった、キャップ秋山こと秋山徹次ルームに集合して朝まで。今日から僕等はここをバー秋山と呼ぶことに。拓ちゃん、としさん、キャップのでこぼこトリオの話に、腹を抱えて笑う。

@月@日
ウィーン 2日目。Cosmos、そして杉本、ラドゥ・マルファッティのセットが美しかった。オレは5人編成の即興のセッションでギターを弾いたが…う〜ん、どうなんだろ。まったく満足できなかった。反応しあって即興することに何の興味もないのは、もう今に始まったことじゃないけれど、エレクトロニカみたいなベースになるようなものを作って即興したり、あるいは現代音楽や即興のクリシェで共演されるのにはうんざりだ。そんな演奏の応酬になってしまった。せっかく楽しみにしていたアミちゃんや、ラディアンのドラマー、マーティン・ブランデルマイヤーとの共演だったのだけど、ちょっと残念。でも終わった後は気分を切り替えて打ち上げ、打ち上げ。なにしろUCHIAGEフェスだもん。で、2次会はまともやホテルのバー秋山へ。なんと今日はどこかから入手した各種お酒のボトルが本物のバーみたいに間接照明の中並んでいる。さすがキャップ秋山。

@月@日
3日目。そうそう書き忘れましたが、ここにも京都の田村さんが連日登場。この日オレはウィーン在住のウィーン人ターンテーブル奏者Takeshi FumimotoとのターンテーブルDUO。ベルリンのトニーのときと同じような感触で演奏しつつも、オレなりに戦ったつもり。精一杯やりました。ここから少し見えてきたこともある。この日はなによりよかったのはキャップ秋山、宇波拓、アミ、マーティン・ブランデルマイヤー、ボリス・ハルフの演奏で、まるでウエストコースト・ジャズのラディアン風解釈みたいなクールな世界。くそ〜、即興のセットでここまでやられると悔しいなあ。みんなお疲れ様。いろいろ考えさせられることだらけのフェスでしたが、でも、こんな葛藤がなくちゃ何も生まれないもんなあ。明日はもう東京に戻るってのに、今夜もバー秋山は終夜営業。キャップご苦労さん。

@月@日
帰国後ふたたびぎっくり腰に。でこの状態のままFilamentのマスタリングと明大前キッドアイラックでのライブと、ツキノワのレコ発ライブをこなす。あ〜しんどいよ〜。もう。

@月@日
京都でFMNサウンドファクトリーの石橋さん、それにヴォーカルのさがゆきさんと打ち合わせ。いつも行く大好きな料理屋さんは定休日。残念。でもそこの女将の紹介で、うまいメシ屋に行くことが出来ました。さんきゅ。え〜と、メシの話はともかく、なんの相談かというと、さがさんの歌う中村八大曲集の相談です。彼女は八大さんのところの最後の専属ヴォーカリストだった人。八大さんを知らない人のために参考まで書くと、坂本九や水原弘等60年代のキラ星のような歌謡曲歌手の代表曲を書いた人で「上を向いて歩こう」も彼の手によるもの。以前手がけた山下毅雄が裏の昭和史だとすると、八大さんのほうはオレにとっては表の昭和史だ。まだ具体的な内容はかけないけれど、オレのプロデュースで、順調にいけば年内にFMNサウンドファクトリーから出る予定。ちなみに前述のFilament BOXも同じFMNサウンドファクトリーから出る。個人レーベルなのに、信じられない幅の広さ…というか両極しかない感じが、オレのツボにはまったのかもしれない。以前ここで出した3インチ・ミニCD『Degital Tranquilizer』もマスタリングとジャケを全面的にやりなおして、ニュー・バジョンでもうじき発売になります〜。そう考えると石橋さんにはお世話になりっぱなし。かれこれもう15年の付き合いだもんなあ。打ち合わせの後は、なんと今日帰国したばかりの田村さんに、女将とその友人も加わってみなでわいわい。そうそう夏の京都西部講堂のイベントの相談もしました。楽しそうですよ〜。今年もオレは屋台を手伝う予定。詳細は下につけておきますね〜。

@月@日
京都でいつもいってる接骨院にいって腰の治療の後、その足で関空へ行き、そのままサンフランシスコへ。ウィーンから帰国して数日しかたってない。さすがに疲れた〜。サンフランシスコではアスフォデルというレーベルに2週間泊り込んでソロのDVDの撮影とCDの録音をする。ここのオフィスの屋上に小屋のようなものが立っていて、ここが客間になっていて泊まれるようになっている。なんだか「傷だらけの天使」の代々木のビルの屋上みたいな風情。夜中はここに住んでる猫ちゃんと2人きりだ。さてさて、サンフランシスコの夏のような青空の下、ぎっくり腰の体で、いったいどんな2週間になるんだろうか。


P-hour 02: An Experience of Modern Music

7月17日(土)
● Otomo Yoshihide New Jazz Big Band featuring Kahimi Karie:大友良英(ギター)、 アルフレッド・ハルト(サックス、バス・クラリネットほか)、津上研太(サックス)、坪口昌恭(フレンチ・ホルン)、石川高(笙)、高良久美子(ヴァイブラフォン)、Sachiko M(サインウェイヴ)、水谷浩章(ベース)、芳垣安洋(ドラムス、トランペット)。ゲスト カヒミカリィ(ヴォーカル)
● 菊地成孔クインテット・ライブ・ダブ + UA
● soft

7月18日(日)
● ROVO
● Buffalo Daughter
● Nutron
● 森本アリ

申込み方法
○受付開始4月10日
○ 申込み受付業務は京都精華大学GARDEN事務局の協力によりおこなわれます。
○ 入場順は2日券、1日券、当日の順番です。
○ 申込み入金締め切り7月9日(金)。
○ 申込みには三つのステップがあります。

  1. メールで予約する。phour@kyoto-seika.ac.jp まで、参加日または二日券チケット送付先住所、氏名、電話番号、申し込み枚数を送信してください。電話、はがきなどでの受付はおこなっていません。
  2. 数日後、事務局より返信が届きます。「参加可」の場合、次のステップへ。「参加不加」の場合、一定数確保予定の当日券を狙ってください。
  3. 郵便局に備え付けの「郵便払込取扱票」の通信欄に P-hour 02 参加日または二日券チケット送付先住所、氏名、電話番号申し込み枚数、e-mailアドレス(申込み時に記入した)を記入の上、チケット枚数分代金 + 200円(郵送事務費)をお振込ください。なお、振り込み手数料は各自でご負担ください。入金確認後「参加チケット」をお送りいたします。発送は6月末を予定しています。
    口座番号 0960-7-243830
    口座名 P-hour推進協会

○ 受付けは、申込み順とさせていただきます。
○ 一旦納入された参加費は返金いたしかねます。ご了承下ください。
○ 当日券は一定数確保するようにいたしますが、満員の場合は入場をお断りする場合がありますご容赦下さい。
○ 本イベントに関するお問い合わせは e-mail phour@kyoto-seika.ac.jp までお送りください。

主催:P-hour事務局(one good turn office)
京都市北区上賀茂池端町9-302田村方


Last updated: March 28, 2004