(フリーペーパー「Tokyo Atom」に掲載。)
今月、来月と2回にわけて、昨年12月シンガポールで体験したちょいといい話を。
@月@日
真冬の東京を後に、赤道直下のシンガポールへ。常夏のこの国で、東南アジアを中心に十数カ国から数十人のアーティストが集まり、1カ月にわたり連日ワークショップやセッションが繰り広げられている。名づけてフライングサーカス・プロジェクト。主催をするのはウォンケンセン率いるシンガポールの劇団シアターワークスだ。オレが参加するのはラストの9日間。こういう機会でもなければベトナムやマレーシア、フィリピンやらカンボジアなどのアーティストと会うことなんて、そうあるもんじゃない。とにかく行ってみる事にした。到着は深夜。そのままホテルに直行。ギラギラのネオンサイン、なんかラブホテルっぽいなあ。とりあえず、近くのコンビニに日用品を仕入れに行く。「きれいに消毒されてて、つまんないとこだよ」。シンガポールに行ったことのある友人が口を揃えて言う常套句だ。でも、このあたりの様子はまるっきり違う。だいたい、真夜中なのにガラの悪そうな連中がうろうろしている。メインストリートは、びっしりと屋台風の食堂が終夜営業してるし、赤線っぽい建物やら、ラブホテルみたいなもんが沢山ある。台北やらマカオの下町みたいな風情だ。悪くないじゃん。ガラが悪いって書いたけど、危険な香りはない。屋台風食堂で大好物のラクサを注文。ココナッツミルクの辛いラーメンで、これがもうめちゃうまい。明日から何が起こるのか、楽しみだぞ〜。
@月@日
朝早くから、チャータバスで市中心部の公園にある会場へ。バスの中は一癖も二癖もありそうな個性的な顔であふれている。聞いたたこともない東南アジアのいろいろな言語や北京語、福建語、英語、韓国語が飛び交う。大巨匠メレデス・モンクや田中泯さんの顔も見える。なんだか凄いことになってるな〜。みな、同じラブホテルの住人だ。「ひさしぶり〜」。日本語で話しかけて来たのは福岡ユタカさんだ。彼は既に半月先行してここに来ている。「どうも、どうも〜。で、どう?」。「それがね〜、う〜ん、ま、行ってみりゃわかるよ」。 会場に着くと早々始まったのが田中泯さんのダンスワークショップ。初めは見学、で後半は試しに参加してみる。泯さんの言うことが良くわかる。体も音楽も基本は同じだ。おっと、でも、ダンスワークショップをしに来たわけじゃなかった。さて音楽、音楽。ん、音楽はどこ? なにやら楽器を持った連中が退屈そうにごろごろしている。時間表を見てみると、ダンスやらシアター関係のワークショップばかりで、音楽がほとんどない。十数人も音楽家が集まって来ているのに、これって一体? やっと音楽のコーナーかと思いきや、その国の音楽事情の講義みたいなことをやってやがる。おいおい、オレはお勉強しにきた学生さんじゃないんだぜ。だいたいワークショップやセッションをオーガナイズするつもりで来たのに、そういう時間が用意されてないじゃないか。ここに集まってるのは、みな地元ではそれなりに活躍している一級の音楽家達だぜ。それがなんで、今さらこんなビギナーみたいなことをさせられなきゃならないんだ? これだけの連中が集まってるなら、もっと建設的な方法がいくらでもあるじゃね〜か。音楽のディレクターがいないのも問題だ。優秀な人を集めりゃなんとかなるってもんじゃない。なんだかだんだん腹が立ってきた。決めた。ウォンケンセンを呼び出す。「あなたがオレや音楽家を呼んだ意味がオレにはまったくわからないんだけど。ちゃんと納得できる返事がないなら、オレは明日帰るから」
無論、話はここで終わりじゃない。ドラマの続きは次号で。