Improvised Music from Japan / Yoshihide Otomo / Information in Japanese

大友良英のJAMJMA日記番外編

韓国新音楽事情

大友良英

ご無沙汰してます〜。お元気ですか?

わたしのほうは8月以降欧米のツアーをやめて日本にいるおかげで、腰や頚椎の痛みはすっかりなくなりました。1年ぶりの痛みなしの生活です。う〜ん、いいもんだ。でもって、今年後半は東京でのんびり…なんて思ってたんですが、ふたをあけてみると全然のんびりなんて出来なくて、レコーディングとライブ会場を激しく行き来する毎日になってしました。そんなわけで最近、全然日記書いてないなあ。書きたいことは沢山あるんです。さがゆきさんと中村八大の作品を録音したこと。浜田真理子さんとのコラボレーションがいい感じで始まっていること。カヒミカリィさんがONJEにゲスト参加して録音をしたこと。ここのとこ、アコースティック・ギターにすっかりはまっていること。台湾に行ったこと。大蔵雅彦の素晴らしい演奏に身もココロもぶっ飛んだこと。伊東篤宏さんとのDUOが面白かったこと、新幹線に乗ったらとなりにココリコの人が座ってたこと、宝くじを勝ったら、なんと1億円の当選番号と1字違い(ただし下2桁目が違うんで1円にもなんない…泣)だったこと、え〜と、他にも、なんか沢山あった & 進行中で…、とまあ、ごたごた言ってないで、いつか日記ちゃんと再開しますから、忘れないでくださいね〜。

え〜と、その代わりというわけではないんですが、今回と次回はここのところ行く機会が増えた韓国と台湾の新しい音楽シーンの紹介をしたいと思います。

で、まずは韓国から。というのも、もうじき韓国ノイズの若手が初の東京公演をやるんで、その紹介もかねて、彼等のことをまずは書きたいと思います。(ライブの案内は、下につけておきます〜)


これを読んでいる人ならご存知の方も多いと思うが、韓国、特にソウルにはサックスのカン・テーファンを筆頭に70年代から即興音楽を演奏する音楽家が少なからず存在していて、独特のシーンのようなものが形成されている。1940年代生まれの彼等以降も、ピアニストのパク・チャンスー、パーカッションのパク・ジェチュン等40代のミュージシャンが独特の即興音楽を行っているが、それ以降については、なかなか情報がはいってこないのが実情だった。無論、東京のように沢山の若手が毎日のようにライブをやるような環境にソウルがあるわけではないが、それでも確実にノイズ以降、音響以降の世代が育ってきているのも事実だ。そのことを実感したのは昨年9月にソウルに行ったときだった。このときは中村としまる、Sachiko Mとともにソウルに入り、パク・ジェチュン、ミヨン(ピアノ)等の即興演奏家と共演。非常にミニマルな演奏をする日本のエレクトロニクスの演奏家と、フリージャズ的な即興をする韓国の演奏家とのコラボレーションは決してスムーズなものではなかった…というか、正確には双方に非常にフラストレーションの多いものだったのだが(注1)、しかしこの時、日本人3人だけの非常に静かな即興演奏を聴いて、飛びついてきた若い音楽家が聴衆の中に何人かいたのだ。流暢な英語を話し、片言の日本語も使い、インターネットでかなりの情報をすでに仕入れている20代の彼等は、それまでの韓国の即興シーンとは明らかに異質な雰囲気を持っていて、なにより見た目がまずはまったくミュージシャンに見えないのだ。そんな彼等にもらった手作りの凝ったカバーに入っているアストロノイズと名づけられたCDRは、予想以上に面白い内容だった。音の質感は明らかにノイズ・ミュージック以降のもので、起承転結のまったく欠如した音のテクスチャーだけの構造は、明らかに音響以降のものだ。そこには気持ちよいくらいそれまでの韓国シーンの即興演奏が持っていた物語性が欠落していて、その乾いた音楽は明らかに新しい世代を予感させるものだった。

その後彼等とともにソウルで毎月ライブを企画している在韓日本人のギタリスト佐藤行衛の招きで、今年の4月に一楽儀光、Sachiko Mと私の即興ユニットI.S.O.のソウル公演が実現。このときにアストロノイズのチェ・ジュンヨン、ホン・チュルギ等と本格的に出会うことになる。佐藤とアストロノイズの3人は、毎月ソウル市内の新村にあるラッシュという小さなライブハウスを中心に「プルガサリ」という企画を昨年からやっていて、ここにはソウル在住のドイツ人即興演奏家のアルフレート・ハルトやアメリカ人トランペッターのジョー・フォスター、韓国即興の第一世代のトランペッター、チェ・ソンベ等も出入り、また日本や海外からも一楽儀光を中心に数多くのゲストが出演、すでに二十数回の公演を行うに至っている。ここで見た彼等の公演は、実にユニークで面白いものだった。CDプレイヤーのふたを開けて、むき出しになった電気回路に手を突っ込みながらCDを誤動作させて独特のノイズを出すチェ・ジュンヨン、ふたを開けたラジオとラップトップで演奏するホン・チュルギ、テーブルトップ・ギターでサイケデリックな演奏をする佐藤、トランペットのマウスピースにプリペアドを施して息の音を有効に使うフォスター。日本や欧米のシーンのように即興、ノイズ、音響、エレクトロ二クス…といった流れが細分化して神経質なくらい棲み分けしているのとは異なり、それらの流れが未分化のまま乱暴に同居しているのだ。「面白い!」。素朴にそう思ってしまった。なにかが始まる直前の未分化な洗練されない状態。わたしはこいつを見るのがいつも大好きなのだ。(注2)

これまで歴史的背景の違いばかりが強調されがちな東アジアのそれぞれの国にあって、国や民族の違いではなく、あきらかに僕等と同じ土俵、同じ情報を共有するミュージシャンが出現してきている。隣の国で、親戚のような言語を使っていながら、これまで僕等には共通の言語はなかった。共通する文化背景も持ってこないままだった。ところがこの数年、あきらかに状況は変わってきている。僕等は同じインターネットのWebを見ながら、同じようなCDを所有し、同じような味のマクドナルドを文句を言いながらも時々食べ、片言の英語を使って互いにコミュニケーションをするようになってきている。正面から見れば、それはアメリカのグローバリズムに侵された東アジアの状況の端的な反映かもしれないが、でも、それは逆に見れば、ある種のタフさとしたたかさを持って、グローバリズムの荒波の中で、僕等の生きる方法を発見していく唯一の道のような気がするのだ。アメリカの軍隊が作ったからといってインターネットを拒否するよりは、それをしたたかに使う道をわたしは探りたいし、英語を拒否するよりは、東アジアの共通語としてのピジン英語を作ってしまう方法を私は選びたい。韓国や台湾、中国のミュージシャンとの交流の始まりは、これまで欧州のいろいろな国の間を行き来するミュージシャン達の中で生きてきた私にとって、その経験を生かすいい機会なのかもしれない。次回は台湾についてレポートしたい。

(注1)このときのパク・ジェチュン、ミヨンとの共演については、雑誌『インプロヴァイズド・ミュージック・フロム・ジャパン』の年末に出る号の彼等との対談の中で、つっこんだ討論をしています。また同じ雑誌の付録CDにそのときの中村としまる、Sachiko Mとの静かな演奏のライブの様子がそのまま収められています。

(注2)アストロノイズ、佐藤行衛の3人が来日11月2、3日に明大前キッド・アイラック・ホールで日本のミュージシャンとともに演奏します。東京での初公演になります。詳細は以下に。興味あるかたはぜひどうぞ。

11月2日(火)、3日(水)
東京、明大前「キッド・アイラック・アート・ホール」
大友良英 プレゼンツ ニューミュージック・コンファレンス
『Korean Meeting』

2日(火)午後7時開演
--from Seoul--
アストロノイズ:Choi Joon-Yong & Hong Chulki
佐藤行衛ギター・ソロ
--from Tokyo--
オプトラム:進揚一郎(ds)、伊東篤宏(optron)
宇波拓(computer)植村昌弘(ds)DUO
大友良英turntable feedback solo
前売り2,000円、当日2,300円

3日(水)午後4時30分開演
--from Seoul---
Choi Joon-Yong ソロ
Hong Chulki ソロ
アストロノイズ(Choi Joon-Yong & Hong Chulki)、佐藤行衛
--from Tokyo--
杉本拓(g)、Sachiko M(sine waves)DUO
秋山徹次(g)植村昌弘(ds)DUO
宇波拓(computer)solo
大友良英 (turntable without records solo)
前売り2,300円、当日2,600円

2日間通し券 4,000円
両日ともセッションあり


Last updated: November 2, 2004