大友良英
どうもです〜。
え〜と、今日から数回にわたって、1月19日〜23日に新宿PITINNで行われるニュー・ジャズ・フェスに出演する人たちを紹介したいと思います。今回のフェスは、わたしにとっては、非常に大きなターニング・ポイントになると思うのですが、とりわけ重要なのは、集まってくれるミュージシャン達で、本当は予算さえつけば、韓国や香港、カナダ、ロンドンからも呼びたい人たちがいたのですが、この1年、せっせと貯めたお金ではこの人数が限界でした〜。そういうわけでこのフェスはわたしが聴きたい、共演したい個人的に大好きな音楽家を集める…という、きわめてわがままな趣旨もありまして、そんなわけで、せめて、どれだけ私が彼等を愛しているか書かなきゃ…と思いつつ、でも日々の仕事に追われて、例によってぎりぎりになっちゃいました。フェス開催までに、せめて遠路はるばるやってくる来日勢の紹介だけでも出来ればと思っています〜。で、まずは初回はベルリンのトランペッター、アクセル・ドナーからです〜。
アクセルは、大袈裟でもなんでもなく、わたしが最も注目している、そして最高にリスペクトしているトランペッターだ。この数年、世界的に大きな注目を集める旧東ベルリン地域の即興シーンのパイオニア的存在であることは言うにおよばず、古くからのフリージャズ・ファンにとってもFMP関係での活動をはじめ、なじみの深い名前だろう。アクセルの独自の即興スタイルのものすごさについては、一昨年の来日時、明大前のキッドアイラックで彼のトランペット・ソロを目撃した人ならきっとわかってくれると思う。今現在の即興音楽にあって、ここまでの演奏技術のクオリティーを維持しつつ、果敢に即興演奏の未知の領域に挑み続けている演奏家は世界中見渡しても稀有だ。
フリージャズ以降、とんと冴えたところのなかったトランペットという楽器を根本から捉えなおして、まずは息を送る管として再解釈しなおした上に、独自の空間的な解釈を加えた彼の即興演奏は、多分、フリーとか、ジャズとか現代音楽といった文脈抜きでも、充分に楽しめるのではないだろうか。この楽器にこんな可能性が残されていたのか…という感嘆が、まずはわたしが彼の現在の演奏に初めて接したときの偽らざる感想だった。その後2001年にカナダで見たアクセル、ジョン・ブッチャー (sax)、クザビエ・シャルル (clarinet) のアコースティック・トリオはさらに驚異的で、1時間のコンサートが終わったあとには腰が抜けるくらい感動した。完全なアコースティックの状態で3人の管楽器奏者の出す音が、まるで化学反応のようにモジュレーションを起こしたり、溶け合ったりしながら、ときに演奏家は静止しているのに独立した3つ以上の音がパンニング(音の位置の移動のこと)するなんて初めての経験だったし、なにより、演奏がある語彙で行われるのではなく、まるで空気の振動の状態を時々刻々と変化させていくだけで、しかもそれが即興でおこっていることも驚きだった。技術的な話はともかく、まずは音楽(と呼んでよければ)としてほんとうにすばらしかったし、ベイリー以降の欧州即興音楽のクリシェのようなものがほとんど感じられなかったのにも感嘆した。いまさら使うのもはばかれる言葉だが「音響的」とは、言葉の本来の意味から言ったら、こういう音楽にこそ相応しい。
彼の本領はそれだけではない。現代音楽の分野やジャズの分野でも今現在もクオリティの高い活動をしていて、音楽家には2通りあって、ひとつのことだけをやっていくタイプと、同時にいくつものことを平行してやっていくタイプとがあると思うのだが、彼は間違いなく後者で、その部分でもシンパシーを感じている。
実は彼とは、これまでさほど共演してきていない。一緒にレストランに行った回数のほいがはるかに多いくらいだ。ぼくらはベルリンをはじめ世界各地で、よく一緒に飯を食べに行く。中華、イタリアン、日本食、ギリシャ料理、ターキッシュ…それこそありとあらゆるレストランに一緒に行った。でも共演となると数回、それも大きな編成で一緒にやったりってことが多くて、がっぷりと四つに組んでやったのは多分2〜3回ではなかろうか。それでも、いつか彼とはジャズでも、即興演奏でも、しっかりと共演したいと切実に思っていた。今回1月20日は彼に好きにやってもらうセッションをお願いした。彼のリクエストはジャズのベテラン・ベーシスト井野信義とのDUO。ここでの彼は、多分まだ日本ではあまり見せていない、ジャズマンとしての顔を見せてくれるはずだ。もうひとつのセットは、彼の本領ともいえるいわゆる「音響的」な即興演奏。今回は私のほかに、彼とも共演経験があって親友でもあるサックスの大蔵雅彦とサイン波のSachiko Mのカルテットでの出演となる。このセット、わたし個人としては今回一番楽しみなセットでもある。19日や22、23日のアンサンブルやオーケストラのセットで起こることとはまた別の、1回しか起こらない新しい出来事が起こることにわたしは期待している。
次回は日本ではまったく無名の、しかしわたしが世界一好きなピアニスト、冬でもサンダル履きで世界を旅する自由人コル・フラーについて書きます〜。
アクセルとは今年の秋ドイツのドナウエシンゲン現代音楽際で、ラディアンのドラマー、マーティン・ブランドルマイヤー、Sachiko M、そしてわたしの4人でバンドを組んで出演する予定。このあともいろいろと共演が待っていそうです。
1月19日(水)〜23日(日)
OTOMO YOSHIHIDE's NEW JAZZ FESTIVAL
新宿PITINN 電話 03-3354-2024
http://www.pit-inn.com/
20、21日の席はまだ余裕ありますので、座って聴きたい方はお早目の予約をおすすめします。19、22,23日もまだチケットありますのでご心配なく。ただしラスト2日に関しては、早めの予約をお勧めします。
1月19日(水)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ENSEMBLE
plays Eric Dolphy「Out to Lunch」:
大友良英(g)、アクセル・ドゥナー (tp / from Berlin)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl / from Seoul)、マッツ・グスタフソン (bs / from Stockholm)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)
1月20日(木)
●アクセル・ドゥナー (tp)、井野信義 (b) DUO
●アクセル・ドゥナー (tp)、大友良英 (turntable)、Sachiko M (sine waves)、大蔵雅彦 (reeds) Quartet
●コル・フラー (p / from Amsterdam)、秋山徹次 (g)、マッツ・グスタフソン (bs) Trio
●コル・フラー (p)、大友良英 (turntable) Duo
1月21日(金)
●アルフレート・ハルト (electronics)、杉本拓 (g)、吉田アミ (vo) Trio
●マッツ・グスタフソン (bs)、大友良英 (turntable, g )、Solo & Duo
●大友良英作曲作品:芳垣安洋 (perc)、Sachiko M (sine waves)、伊東篤宏 (optron)、大友良英 (turntable)、宇波拓 (computer)、中村としまる (no-input mixer)
1月22日、23日(土、日)
●OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ORCHESTRA:
大友良英 (g)、アクセル・ドゥナー (tp)、津上研太 (as, ss)、アルフレート・ハルト (ts, b-cl)、マッツ・グスタフソン (bs)、青木タイセイ (tb)、石川高(笙)、コル・フラー (p)、Sachiko M (sine waves)、高良久美子 (vib)、水谷浩章 (b)、芳垣安洋 (ds, tp)
スペシャルゲスト:カヒミ・カリィ (vo) 他、特別ゲストあり
19日、20日、21日:各3,500円 / 22日、23日:各4,000円 / 5日間通し券:16,000円
新宿ピットインにて、チケット前売りおよび予約受付中