Improvised Music from Japan / Taku Sugimoto / Information in Japanese

ヨーロッパ即興音楽紀行 2

今年の4月から5月まで3週間ほど、オーストリアとドイツを訪れ、数回のコンサートとレコーディングをやった。又、興味ぶかい音楽家にもたくさんあったので、ここで紹介したい。

ウィーンに着いて翌日、フィードバックスタジオというところでレコーディングセッションをした。メンバーは Werner Dafeldecker (double bass, table guitar)、Martin Siewart (guitar, electronics)、Burkhard Stangl (guitar, etc )。Werner とは去年、Wels のフェスティヴァル、music unlimited で大友良英さんの「ミイラになるまで」で一緒に演奏している。即興演奏の他に、作曲活動やプレイヤーとして様々なプロジェクトに参加していて、なかなか多忙な人らしい。Durian Records というレーベルも主宰している。Martin は1971年生まれの若手。3人の中では最もエレクトロニクス指向が強い。Burkard は変わったセンスの音楽家で、演奏に不思議な味がある。展開にも予測のつかない所がありそれが妙に新鮮だ。後日、Martin と私とのギタートリオでライヴをした時も、一人だけアウトなフレーズを連発していた。Durian Records からリリースされたソロでは、数本のギターとピアノを同時演奏し、静謐でいてとらえどころのない独自の世界を作り出している。名盤だと思う。

この日のセッションは総じてドローンに終始する傾向の演奏だったが、それは彼らの特質でもある。彼らはそれぞれメンバーを重複させながら多数のバンドやプロジェクトを作っているが、それらのCDを聴いてみてもその傾向が強い。それぞれの音を重ね合わせるようにして音響が作られている。又、無機的なエレクトロニクスの感触が、同じくオーストリアのレーベル、Mego にも通じる。ちょっとややこしいが、Martin と Burkard に Boris Hauf (saxphones, electronics)と Dieb13 (turntables) を加えたバンド、"efzeg"、Burkard と Werner に Michel Moser (cello) のトリオ、Polwechsel(彼らはそれぞれ Radu Malfatti (trombone)と John Bucher (saxphones) をゲストにむかえた2枚のCDを Hat hut からリリースしている)、Werner、Burkard、Martin の3人に Dieter Kovacic(Dieb13と同一人物、Takeshi Fumimoto の名でも活動)、Christof Kurzmann (computer, clarinet) による Shabotinski などがある。Christoph Kurzmann は Charhizma というレーベルを主宰、Martin のリーダーアルバム(Werner の他、Wayne Horvitz、Tony Buck などが参加。演奏はややロック的な感じがする)、Werner、Christoph、Christian Fennesz に Jim O'rourke、 Kevin Drumm、それに Martin が参加したCDなどをリリースしている。

ウィーンのクラブ、Rhiz はエレクトロミュージックのメッカ的存在で、ライヴやDJがおこなわれている。こじんまりとしたガラス張りの店で、外にもテラスがあり気軽に立ち寄れるカフェのような感じ。レーベルも持っていて、クールで冷たい感触が特徴のウィーンのジャズトリオ(?)、Radian のCDなどをリリースしている。 Mego とも協同関係にあるようだ。Rhiz には毎晩飲みにいっていた。というのも私たちが世話になった Alexander de Goederen とその家族の家が歩いて1分の所だったからである。Alex もレーベル、Plag dich nicht を運営し、テクノやエレクトロニックミュージックのCDをリリースしている。前述の Shabotinski のCDもここからのリリース。地下のスペースを利用して、私、Burckhard、Martin とのギタートリオのコンサートも開いてくれた。ウィーンでは、オーガナイザーでミュージシャンでもある Akoasuma こと Silvia にも世話になった。彼女も去年、Wels のフェスティヴァルに出演していて、Werner とともにエレクトロ・アコースティックな音楽を演奏した。

同じくオーストリア、Ulrichesberg のフェスティヴァル、Ulrichesberger Kaleidphon ではソロで演奏した。主催者の Lois Afischer によって20年近く続けられている即興音楽のフェスティヴァル。ロケーションが又凄い。Ulrichsberg は全長700メートルほどのとても小さな村で、全体が小高い丘のようになっている。この辺りは周りに小さな村が点在している他は一面の緑だ。駅がないので車かバスでないと来れない。元山小屋と思われるコンサート会場の周りにはお客さん達がテントを張っていた。3日間で11組が出演。ICP-Orchestra、ソロと自らのトリオで出演した AMM の Eddie Prevost、ベルリンのピアニスト、高瀬アキ、Ken Vandermark 率いるシカゴの DVK-Trio などをのぞいて比較的無名なアーティストが多く、音楽的にも渋めのラインアップだった。

暇だったので全セット観たが、全体的にジャズの流れを感じさせる演奏が多い中で、最近の傾向を反映してかエレクトロニクス中心の即興をするグループもいくつか出演していた。ウィーンの Efzeg、ロンドンのヴァイオリニスト、Phil Durant 率いる Ticklish(ビジュアルアーチストを含む4人組。Phil はここではヴァイオリンを弾いていない。サンプラー、エレクトロニクスによるミニマルミュージック)、そして最近私が注目しているアナログシンセサイザー奏者、Thomas Lehn をふくむ Antasten(他のメンバーはピアノとエレクトロニクスの Hannes Loschel とコンピューター、エレクトロニクス、キーボードの Josef Novotny)などである。特に Thomas Lehn のトリオはもっとも印象に残った。3人ともエレクトロニクスを使っているにもかかわらず、それぞれの発する音や役割分担がよくわかった。端正な部分とアナーキーさ(Thomas によるところが大きい)が同居している。こういうのは意外と珍しい。空間を音で満たすのではなく、音の質感を大切にインプロヴァイズしていく彼らの音楽は地味ではあったがとても興味深かった。又、Thomas にはCDをもらった。Peter Van Bergen (electronics, wind controller, sampler)、Gert-Jean Prince (electronics, radio)とのトリオによるものとリリース予定のソロのCD-Rで、どちらも素晴らしいが、ソロが特に強力だ。Phil にもらったCDでも Thomas が演奏している。この Radu Malfatti (trombone)、Phil Durant (violin)、Thomas Lehn のトリオによるライヴ盤は、ちょっと聴いただけではインプロヴィゼイションというよりミュジーク・コンクレート(というより、楽器によるミュジーク・コンクレートそのもの)の様だ。沈黙の強度はひょっとして、Bernhard Gunter を上回っている。私のひいきを抜きにしても一聴の価値はあると思うが、ちょっと手に入りにくいCDかもしれない。その他、I.C.P-Orchestra や Eddie Prevost が素晴らしい演奏をしていたが、個人的には、初めて生で聴く DVK-Trio のドラマー、Hamid Drake に感動した。

その後、ベルリンに移動。そこで、今回の旅の目的である、女性ミュージシャン、Annette Krebs (table-top guitar) とのレコーディングとコンサート。ベルリンには2週間近く滞在したが、Annette や彼女の音楽パートナーである Andrea Neumann (inside piano) や Axel Dorner (trumpet) 達とセッション三昧の毎日で、ベルリンの若手即興シーンを堪能した。私の知っているベルリンのインプロヴァイザーは実にハードコアな演奏をする。Axel Dornor は Annette によると、音楽だけで身を立てている数少ないベルリンの即興音楽家のひとり。もちろん、即興だけやっているわけではない。以前、高瀬アキのビッグ・バンドで来日したことがあると言っていた。彼とはライブやスタジオで何回かセッションをした。ほとんどメロディーは吹かず、音色を追究している感じで、その音は驚くほど多彩だ。以前、Kevin Drumm に、Axel とのデュオの録音を少し聴かせてもらった時も、Kevin との音の区別があまりわからなかった。てっきり、エレクトロニクスを使っているものと思っていたが、そうではないらしい。Robin Heyward (tuba) と私と Axel でやったセッション(正確にいうと、その時たまたまベルリンに居たThomas Ankersmitが途中から参加。彼はニューヨークで Borebetomagus や白石民夫などと共演しているサックス奏者)は忘れがたい。Robin も Axel も、シーとかスーといった摩擦音の様なものから、何かフィード・バック音みたいなものまでアコースティック楽器から引き出している。それが又、異常なまでに禁欲的で、何かの修行でもしてる様なアトモスフェアーだった。言うまでもなく、限りなく小さいヴォリュームと沈黙がこの日のセッションを支配していた。セッションの後で、服の擦れる音や、道具を持ち替える時に偶然でてしまう音をどう捉えるか、みたいな議論をしていたぐらいだから…。

ピアノの内部を取り出したユニークな楽器、inside piano を奏する Andrea Neumann は Annette とのデュオや、Annette と Axel とのトリオ、Ananax 等で活動する。彼女と Annette も去年の Wels のフェスティヴァルに出演しており、その時に知り合った。彼女達や Axel の演奏の特徴は乾いた音色とその音の切り出し方のタイミングのおもしろさだ。CDを聞いていると、間違えてストップ・ボタンを押したんじゃないかと思うぐらい音がいきなり消えて、又突然現れる。この音楽もある種のテープ・コラージュの様に聞こえるが、興味深いのは、ウィーンの即興演奏家が音色的に Mego に通じているように、彼女達のドライな音の質感が Selektion レーベル を思い起こさせたことだ。前述の Durant、Lehn、Marfatti のトリオと同様(Annette と Andrea は Radu Malfatti ともコンサートを行っている)に、彼女達の音楽も沈黙が重要な役割を占めるが、こういった隙間を生かした演奏形態が何故ヨーロッパ(特にドイツ)に多いのか不思議である。John Cage や Christian Wolff らのダイレクトな影響だろうか?

同じくベルリンのインプロヴァイザー、Michael Renkel (guitar) と Burkard Beins (percussion) のデュオをフランスのトゥルーズで観たとき、広めの会場にもかかわらず、彼らはアコースティック・ギターとドラム・セットを P.A も電気も通さず演奏していた。これはちょっと日本では考えにくい。音色は Annette 達とちがってそれほどドライなものではなかったが、その即物的な音の有り様には共通するものがある。彼らはヴァイオリン、トロンボーン、ピアノ、ギターといった西洋楽器を使いながら、その楽器がもつアナーキーな面を発展させている様にみえる。この種の音楽への私の極個人的な偏愛のせいかもしれないが、矛盾を恐れず言えば、音楽におけるすぐれたアブストラクトとはいかに音を具体的に響かせるかということではないかと最近思う。誤解を招きそうだけど…。

最後にベルリンの即興スポットを紹介したい。Kulturhaus Mitte では週一回、即興演奏のコンサートが開かれている。Andrea、Annette と共に、私は2回ここで演奏したが、1回は、Agusti Fernades (piano)、Christoph Irmer (violin) のコンサートへのゲストという形でのセッションであった。シカゴのマイオピックの様な感じだろうか。私と Annette は Podewil でも演奏したが、ここではインプロヴィゼイションのコンサートはあまり多くなく、エレクトロニクス/コンピューター・ミュージック、ノイズ、テクノを中心に月に2〜3回のライヴがある。その他、自宅などでもコンサートが開かれているらしい。ベルリンのシーンは中村としまるがくわしい。

CDs

Efzeg / Grain, durian 012-2
Burkhard Stangle / Recital, durian 006-2
Martin Seiwert / Komfort 2000, charhizma 007
Defeldecker, Kurzmann, Fennes, O'Rourke, Drumm, and Siewert, charhizma 002
e-rax (Van Bergen, Lehn, and Prins) / Live at the Bimhuis 1999, field recordings fr9
Durrant, Lehn, and Malfatti / Beinhaltung, fringes 03 limited edition of 400
Neumann, and Krebs / Protophorm Neodym Tritophorm Hortest, charhizma ( forthcoming )

杉本拓 2000年8月


Last updated: October 11, 2000