私はマンガというものを猛烈に読む。どのくらい猛烈かというと、例えば、一度読んでハマッてしまうと、三〜四日徹夜して一気に五十巻程を読破するという具合。その間、外にほとんど出ないので食事も全然とらない。こうした不健康なあほのような読み方は、小学生の頃からの習慣なのだが、しかし、あの当時、昭和四十年代の小学生というのは、皆、大抵かなりイレ込んだマンガの読み手だった。
それは、どうしてかというと、当時のマンガが面白かったからだ。異常に。そのため私は、小学校の六年間、マンガだけを読んで生活し、教師たちから「マンガバカ」の称号を、そして級友からは「マンガ天皇陛下」という尊名を奉戴した。マンガ読み冥利に尽きた。
さて、この本は、あの梶原一騎の伝記である。冒頭のネタ振りからして、相当な梶原マンガの愛読者だと、私のことを御推察でしょうが、残念ながらハズレ。『巨人の星』をはじめとする、梶原原作のマンガはほとんど読んでない。小学生とはいえ、関西系の屈折したスノッブだった私は、谷岡ヤスジや、水木しげるや藤井旭が好きだった。『あしたのジョー』は読んでいたけど、これはちばてつやが描いていたからである。
そのような梶原オンチの私が、ひょんなことから手にした、この本を読んでどうだったかというと、これがナント、大変面白かったのだ。著者は、梶原マンガに心酔するあまり、極真会にまで入門したという熱血漢だが、程好く抑制の効いた文章は、出版界の伝説にまでなった破天荒な暴君「梶原一騎」と、ガキ大将の様に無邪気で純真な「高森朝樹」(本名)とを見事に描き分けている。晩年の酒による奇行、蛮行も合わせて、ひとつの時代を築き、そして自ら幕を下ろして逝った、一代の天才。その強烈な生き様は、それだけで優れた、一篇の小説になっている。梶原マンガがキライだった人に薦める。
山本精一
筑摩書房 「頓知」1996年3月