Improvised Music from Japan

CD「Plays Standards」ライナーノーツ

文:鈴木美幸

90年に関西で結成以来、アルタード・ステイツはロック的手法による即興演奏を展開してきた。特にここ数年、拠り所となるテーマや事前の取り決めの一切ない完全即興と化した彼らのライヴ演奏は、日本はもとより欧米でも高い評価を得ている。そんな彼らがジャズのスタンダードに挑戦するというのだから、興味を抱かずにはいられない。

程度に違いこそあれ、メンバーは3人共、過去においてジャズと無縁だったわけではない(スタンダード体験を順位付ければ、芳垣を筆頭に内橋、ナスノの順になろう)。アルタード・ステイツのコンサートのアンコールで、スタンダードを取り上げることもあった。ただしそんな時でも、従来型の4ビート・ジャズとして演奏することはまずない。実際、ライブで聴かれた彼ら流のスタンダード演奏が、今回のアルバムでもある程度、踏襲されたといっていい。つまり、力点はジャズを演奏することよりもむしろ、スタンダードをいかに料理するかにある。

スタジオでは各曲ごく簡単な譜面を用意し、テンポ、リズム、演奏の構成など少しばかり打ち合わせをしては、次から次へと小気味よく録音をこなしていったという。全体として、終始4ビートをキープしてテーマからアドリヴ・ソロ、そしてテーマに戻るという、一般的なジャズ演奏から遠くかけ離れていることは一聴にして明らか。彼らが設定した演奏の構成や趣といったものは、曲によって大きく異なる。ただ総じて言えることだが、各曲ともかなり短めの演奏時間の中で、その曲の持つ馴染みあるメロディは十二分に聞こえてくる。大胆なアレンジを施しながら、ほぼテーマ部の提示に終始している演奏は多い。

言いかえれば、ここが彼らの狙いなのだ。ソロのパートになるとテーマ部とはムードが一変しかねない従来型のジャズ演奏はしない。せっかくメロディの素晴らしい楽曲を手掛けるのだから、メロディを活かし、そこに新たな輝きを見いだすことに重点を置こう。

とはいえ、簡単な譜面とわずかな打ち合わせだけで、発想豊かでアレンジに相当時間をかけたかと思わせる演奏を矢継ぎ早に録音してしまうあたり、さすがに即興演奏のバンドである彼らの面目躍如たるものがある。彼らのライヴ演奏を聴くと、完全即興にもかかわらず、あらかじめ作曲されたテーマが存在するのではと信じたくなることがよくある。技量に長けた3人の息がぴったりと合っているからできることだ。スタンダードに挑戦した今回、テーマとなるメロディは存在し、彼らはそのアレンジの妙を提示してみせるのだが、またしても彼らに裏をかかれた思いがする。実はその創造に最も寄与したのは、事前の決め事ではなく彼らの即興性なのだ。ソロ・パートを必要としないジャズ・スタンダードの即興演奏…そんなものを彼らは聴かせてくれたような気がする。


Last updated: December 5, 1999