すっぽぬけである。ミーティング・アット・オフ・サイトのアルバムがあまりにも素晴らしすぎた。で、その首謀者のひとりである中村としまると飲みながら話をしたのだが、返ってくる答えは、「いやー、俺達のんびり屋ですからねー」、「まあ、なりゆきでこうなったということで」など、かなりふにゃふにゃ。挙げ句の果てには、「こんなんで記事になりますかねー?」とおっしゃる。まったくもって自然体である。
ミーティング・アット・オフ・サイト(以下ミアオサ)は、中村としまると秋山徹次がオーガナイズしている月例コンサートである。毎回違ったゲストを招いて即興演奏を楽しんでいる。最初は杉本拓がメンバーに加わっていて、ミーティング・アット・バー・アオヤマ(以下ミアバア)として南青山のバー・アオヤマで活動を続けていたが、2年前に代々木オフサイトに場所を移し現在に至っている。
「東京にくる外国人のミュージシャンの友人と演奏する場所をつくるために始めたんだけど、東京に面白いミュージシャンがいっぱいいるわけだから、国籍にかかわらずやっていこうということになって。コンセプトとしては、これまで一緒に演奏したことのない人とやろうかと。あと、即興以外はやらない」
そうやって始まったシリーズもすでにミアバアで20回、ミアオサで24回。よくも続いたものである。で、最近ミアオフでの演奏をまとめたアルバムをリリースした。音は彼らの人柄のようにこれまた自然体。すかすかの空間にまばらな音をポツリポツリと置いていく。ぼそぼそした独り言のように聴こえたりもする。たまにエレクトロニクスっぽいブワーンというノイズが入ってきて少し盛り上がったりするが気がつくと元に戻っている。即興ではあるが、ジャズっぽいコール・アンド・レスポンスはなし、現代音楽っぽいストラクチャー重視の姿勢もなし、明らかに独自の演奏である。
「俺達の演奏も変わってきてますからねー。ミアバアの頃はとりあえずやってみて、あーこういう音楽をやるんだ、ということを毎回噛み締めてたんだけど。今は、もう解って確信犯でやってるよねー。それがいいか悪いかはべつにして、ゲストの演奏者もそれに合わせてくれるというか。まあ、ミアオフじゃなくて、ミーティング・ウィズ・ナカムラ & アキヤマでもいいかも」
彼らの強みは、自分達でスペースを確保し試行錯誤をマイペースで続けてきたことだろう。情報に流されやすく、自分を見失いやすい忙殺都市東京にあっては稀なことである。ゆえに音楽はまっとうなたたずまいを感じさせるし、スカスカでも力強い。近年、彼らのやっていることがヨーロッパの即興音楽家たちから驚きの眼差しでもって見つめられている。実際、彼の地のフェスティバルに招かれることも多い。日本の若い世代の即興音楽家からも随分とレスペクトされている。欧米だろうと日本だろうと、即興音楽の価値自体は激しく揺らいでいる。いまやなんでもインプロになってしまったし、伝統を重んじれば過去の重みに耐えかねてにっちもさっちもいかなくなる。深く考えるよりはとりあえずできることをやってみよう、という彼らのひょうひょうとした態度が、そこに新鮮な空気を送りこんでいる。とてもすがすがしいのである。
『ミュゼ』Vol. 38(2002年7月発行)掲載