DGはニューヨークのブルックリンで二匹の猫と一緒に暮らしている。ある小説家の邸宅の一部を間借りしていて、洒落た雰囲気の書斎兼リビング・ルームには、小説や美術書がぎっしりと収まった書架がセンスよく並べられている。知的な薫りが漂っていてミュージシャンの部屋という感じではない。にもかかわらず、DGはとても気さくな奴だ。十代の頃はスクワール・ベイト(リスの餌、という意味)というパンク・バンドでギターを弾いていた。デッド・ケネディーズやブラック・フラッグが好きだったという。部屋の片隅にフェンダーのギター・アンプがころがっているのが唯一ミュージシャンらしいところか。
「このアルバムって物凄く変わってるよ。時間軸の流れも曲のストラクチャーもぜんぜん音楽的じゃない。どうやって作曲したわけ?」
「各セクションごとにアイディアをまとめて、スタジオのなかで時間軸にそって録音していくんだ。作曲というよりはアイディアの編集に近いと思う」
「じゃあ、各セクションの細部はどうやって考るの?」
「僕は想像力に溢れた人間じゃないから、すべて具体的な事柄から考えるんだ。ギターのリフやフィールド・レコーディングした音をなにと組み合わせるか。ミクロのレベルを作り込んでいけば、自ずからマクロのレベルが浮かび上がってくる。全体のサウンド・スケープが見えてくる」
「トニー・コンラッドが参加してるけど、彼にも具体的になにをしてくれと頼むの?」
「トニーとは長年のつき合いだし、彼の解釈を曲に取り入れることも多いよ。たとえば、一曲目に入れたノイズはトニーがラ・モンテ・ヤングの曲を弾いているんだ。でも、曲を演奏するんじゃなくて、楽譜を木の枠に張りつけて、それを弦でずたずたになるまでこすったんだ(笑)」
「そんなにラ・モンテが嫌いなの? まあ、わかるけど」
「2曲目のノイズはトニーがラ・モンテの楽譜をハサミで切り刻んでいる音(ふたりとも大爆笑)。彼らふたりは似て非なり。トニーは音楽的なミクロの部分をとてもデリケートに扱ったからね。マイクロ・チューニングへのこだわりもそうだし」
「しかし、捻ったアイディアが多いね。逆立ちして聴くと普通に聴こえたりして(笑)」
「自分なりのルールが明確にあるんだ。僕は自分のことをあまり音楽家だとは思ってないからね」
DGはさかしまの世界に生きる世にも稀な詩人なのだ。「アクト・ワン、シーン・ファイブ」のジャケットにあしらわれた砂漠でひっくり返った廃車の写真(ダグ・エイケン)を見れば、奴がいかに頽廃的なセンスの持ち主かよくわかるだろう。危険極まりない。だいたい、あの笑顔があやしい。いつも愛想がいいのも裏があるに違いない。もしかしたら、天井からロープでさかさま吊るした女を眺めるのが好きかも知れない。倒錯した、というよりは転倒した欲望か。とにかく、すべてをひっくり返してみたいのだ。アブノーマルな奴だ。ガスター・デル・ソルの頃からずっと人工的な音のエレガンスを追い求めてきた。----- DGはノーション<観念>とエモーション<感情>の間で宙吊りにされた音のモーション<運動>を定点観測するのがなによりも好きなのだ。
『ミュゼ』Vol. 35(2002年1月発行)掲載