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終りなき音楽との対話

ジョン・フェイヒィ

恩田晃

6月5日、茹だるような暑さ。初めての来日ツアーを終えたばかりのジョン・フェイヒィと、彼が滞在していた都内のホテルで逢う。フェイヒィは1939年生まれ、十代のころからブルースやカントリーなどのアメリカ音楽を演奏するギタリストとして、数多くのアルバムを発表しいてきた。その多肢にわたる活動を記すとすれば分厚い本が一冊書けるだろう。

前日の夜、法政大学でのコンサート、フェイヒィは、ステージでただひとり、音楽と対話しながら注意深く演奏をすすめていく。

「まずはギターを手にして音をだしてみる。そして、無意識のとびらが開かれるのをじっと待つんだ。とびらが開くやいなや、ことは勝手にすすんでいき何かが起りはじめるんだ。曲順もどんな風に演奏するかも考えない。俺の頭のなかには何百という曲のレパートリーが詰まっているんだが、その中から演奏すべき曲が勝手にでてきて俺のエモーションと合わさって音楽になるんだ。音楽はことばだよ。俺はそれを翻訳しているだけさ」

彼の演奏する曲は、オリジナルからスタンダード、それに即興的なものまでさまざまだが、それらはちぎられたり、くしゃくしゃに丸め込まれたり、ふたたび元に戻されたりしながら、彼のエモーションを発露させるためのメディウムとなる。クレヨンを手に子供が遊んでいるような感じなのだ。

「ハミングやおしゃべり、それにギターをチューニングするノイズ、その場で発せられた音はみんな俺の音楽の一部なんだ。ひとりで演奏するシンフォニーみたいなもんだよ」

フェイヒィは、長い人生の道のりのなかで、みずからを確認し、やすらぐことのできる場所を絶えず求め続けてきた。ジム・オルークがプロデュースした新しいアルバム『Wonblife(子宮のなかで)』でもそれは顕著に現れている。ねじくれたチューニングにギター、不協和音、ガムランのテープ・コラージュなどが渾然一体となり、謎めいた曇り空に支配されている。

(彼は手元にあったナプキンにマジックで大きくなぐり書きする)
「俺がやっているのはこういうことだ。"TRY TO EXPRESS UNPLEASANT EMOTION" ゆるされぬ感情をあらわにする。この歳になって自分の人生からようやく解き放たれたんだ。ずっと牢獄のなかにいるような気分だったね。これまでにやってきたたいていの音楽は "ART SONG"だよ。つまらない芸術ごっこにすぎない。自分の感情をストレートに表現することを恐れていたんだ」

最後に、いくつかのことばを挙げていき、そこから何を連想するか訊いてみた。
アメリカ 「死」
ギターに触れている指 「ペニス」
ドアを開け 「それもペニスだ」
女 「うーん、それはちょっと答えられないな(笑)」
音楽 「ハハハッ! それが女だよ! インタビューよりこんなことば遊びの方がよっぽど面白いよ」

『ミュゼ』Vol. 20(1999年7月発行)掲載


Last updated: September 17, 2002